武蔵随想
決闘巌流島


巌流島決闘であるが、およそ吉川英治版宮本武蔵を映像化しているので、イメージは大体こんなものだ。
岩間角兵衛あたりが「うぅぅ、えぃえぃえぃ!む、む、武蔵はまだか!」と怒鳴りちらすと、
それを聞いた小次郎が「約束の刻限に遅れるのは、やつの常套手段。そのような策におぼれる小次郎ではないわ。」と静かに言う。
見張りの者が「武蔵の船が見えたぞぉ〜」と叫ぶと同時に、小次郎が海の方に目をやる。
すると、既にそばまで武蔵を乗せた船は着ている。
武蔵は船から下りて膝上まで海につかって立つ。小次郎が歩みより「遅いぞ武蔵!臆したか!」と言って鞘を投げ捨てる。
それを見た武蔵が「小次郎、敗れたり」と言う。小次郎は「うぅ、何をもって」と言ってややたじろぐ。
映画などでは小次郎は冷静だった風に描かれていて、最近では武蔵の言葉にうろたえない。
約束の時間に遅れることが、小次郎には心理作戦だと分かっているからで、小次郎ほどの剣の達人なら、
こんなことに心を乱されないのだ、と。
最初から心理作戦だと分かっていたとなれば、武蔵の立場は滑稽だ。
もちろん経緯、結果が分かっているのは後世の者たちである。
もっとも、「二天記」では、小次郎がたじろいだなどと心理面は記述されていない。
360度丸見えの離れ小島なら海の上に武蔵の船は見えるはずで、武蔵の出発が遅れたとしても、
船が見えれば、まだ、あの辺だったら、あと半刻はかかるくらい分かるはずだから、逆にいらいらしないのではないか。
いらいらさせるなら、ゆっくりと進んで、一時間で済むところを二時間くらいに引き伸ばすほうが効果的だ。
巌流島は、意外と陸から近い。

