武蔵伝説

敵討ちの助っ人

夏のある日、一人の少年が武蔵を訪ねてきた。
「なんの用じゃ」と聞くと、「お願いがあります。」という。
「はて、願いとは?」
少年は仔細を語った。
「明日、父の仇を討ちます。領主様のお許しも得ております。」
武蔵は助太刀を頼みに来たのか、と思って、
「わしに助太刀をせよいうのだな。」というと、
「そうではありません。父の仇は私の手で討ちます。ただ、勝つための太刀筋を教えてもらいたいのです。」
武蔵はしばらく考えていたが、やがて
「必勝法を教えてやろう」といかにも自身に満ちた声で言った。
少年は眼を輝かせた。
「抜いて、青眼に構えよ。」と武蔵は少年に命じた。
少年は言われたとおりにした。
「よし。それでよい。その構えにて、無念夢想に突進せよ。相手の胸元にめがけて、まっすぐ突進するのだ。」
少年は武蔵の教えどおりに何度も練習した。
そして、最後に武蔵は言った。
「明日の敵討ちには、まず、足元をみよ。地面に蟻が這っていたら汝の勝である。
もし、蟻が這っていなくても、わしが摩利支天に祈っておるから、必ず、勝利に導くであろう。」
果たして、少年はみごとに敵討ちを遂げた。


養子になりそこねた少年の話しである。