てぬぐいの雑記


 思ったり、思わなかったり。
思ったことを記す。


…… ……

5    助六
更新日時:
2004.06.14 Mon.

祝幕by伊藤園&ヤマト運輸

(※ねたバレ注意……といっても、俎上の物は300年くらい前から周知の筋だと云う)
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6月5日、歌舞伎座の客となる。
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夜の部最終の演目は、2時間の一幕もの。
その間舞台転換ナシ、暗転も照明の変化もナシ。
設定は夜の場面だが、舞台は隈なくすっぺんぺんに明るい。客席もずっと明るいままだ。
劇の運びに時間の省略もナシ。
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これだけを聞くと、いかにも飽きてしまいそうな演劇だ。でも実際は……次々に現れるキャラクターが繰りひろげるストーリーに退屈の暇はナシ。
(筋書きを見ると登場人物は約100人)
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「助六由縁江戸桜」(すけろくゆかりのえどざくら)はシチュエーション・コメディと云えるかもしれない。初めて観たとき、おもしろくてビックリした。
紫色の鉢巻、帯の背に挿した尺八、手にした蛇の目傘といういでたちの男は、何かで目にしたことがあった。また「助六」という名を聞いたことも、それまで幾度もある。これが有名な作品であることは明白、しかしその中身、芝居の面白さは全く知らなかった。
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江戸吉原仲之町。助六はこの色里に日を空けず現れ、遊客に喧嘩をふっかける。相手を心底怒らせ、刀を抜かねばいられなくなるまでとことん辱める。それというのも、仇敵の手がかりとなる刀、「友切丸」を捜しだすための行為だった、と後に判る。実は助六は曾我五郎が身をやつした姿だった。
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あらすじはこんな感じ。だが、ストーリーの展開よりも楽しめるのは、喧嘩の威勢よさや人を怒らせるプロセスだ。
無粋な野郎を衆目のなか面罵しまくる。一服よこせと云う奴にはキセルを足の指に挟んでさしだす。相手の頭にうどんをかける、下駄を乗っける。「どぶ板野郎の、だれ味噌屋野郎の、だし殻野郎め、引っ込みぁがれ」 「鼻の穴へ屋形船蹴こむぞ」
などの悪態が立て続けに出てくる。
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と、書いてみるとなんとも嫌な奴かのようになってしまうが、彼の稚気を含んだ大げさな行いは、颯爽としていて胸が透くほど潔い。シャラッと云い放つ口の悪さも、また居ずまいも惚れ惚れするほど恰好がよい。吉原での大モテぶりも度を超えている。「俺の名を手のひらに三遍書いて嘗めろ、一生女郎に振られるということが無ェ」と自負する。こう云ってはなんだが、もうバカげている程「いい男」なわけだ。
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これを今回襲名した市川海老蔵が演じた。
生来の男前が役を得てピタリと決まり、鮮やかな男っぷり。観ていて奥歯に力が入ってしまうくらい冴えていた。
海老蔵のこちらに圧し出てくるような響く声に包まれおばさま達はもうメロメロ?、鋭いビームを放つかに思える力強い眼光に、おじさま等もヒーローへの憧れを抱いてしまう……?。襲名の祝いを拍車に、元よりある祝祭性をさらに高めたこの舞台を前に、昂ぶり華やいだ客席の雰囲気は忘れられないだろう。劇場全体を寿ぐ風が吹き抜けていた。
(満場の客席の平均年齢はいつもに較べるとグッと低かった)
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今まで観てきたあの芝居、かの狂言を、この海老蔵で観てみたい、強く思った。劇場に参ずる回数がまた増えてしまいそうだ。
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切符代・3階A\6.300
昼の部も 〃 \6.300
 
 
だいぶ以前は相当メジャーなお話だった曾我兄弟の仇討ちも、語り継がれなくなって久しいという。私も歌舞伎を観始めてから「日本三大仇討」の一つといわれる物語の概要を知った。
兄・十郎祐成、弟・五郎時致が登場する演目は多くあり、曾我物というジャンルさえ成している。



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