『夜明けの雪』-2

「強盗じゃなかった?…って、どういうことだ。
 現金とダイヤの指輪を盗まれたっつう話、あれが嘘だったって言うのか?」

事件発生から5日目。
遂に容疑者の居場所を突き止め、任意で取り調べる許可を貰おうと、勇んで千秋に連絡を取った高耶は、信じられない答に耳を疑った。

「…任意でも引っ張るのはナシ…か。」

「そういうことだ。」

ギュッと唇を引き結び、高耶は無線を握り締めた。
ひとつ隔てた通りの角では、直江が花屋に入った容疑者を見張りながら、今か今かと千秋の許可を待っている。

この数日、現場に何度も通った。
あいつと二人で聞き込みして、絶対コイツだって容疑者を見つけて、やっとここまで来たんだ。

怯えた顔で声を震わせながら事情聴取に応えていた女中さん、
部屋に残されたナイフに付いていた指紋と泥だらけの靴跡、
逃げる姿を目撃した人々…

彼らの証言は、嘘なんかじゃない。
被害届の取り下げ?
そんなバカな!

なぜだ?
本当を嘘に変えるなんて…
何かある。
この事件の裏には、一体何があるんだ?

「わかった。すぐ署に戻る。」

プツッ…
無線の切れる音が、車を降りた後も耳に残っていた。

 

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