「強盗じゃなかった?…って、どういうことだ。
現金とダイヤの指輪を盗まれたっつう話、あれが嘘だったって言うのか?」
事件発生から5日目。
遂に容疑者の居場所を突き止め、任意で取り調べる許可を貰おうと、勇んで千秋に連絡を取った高耶は、信じられない答に耳を疑った。
「…任意でも引っ張るのはナシ…か。」
「そういうことだ。」
ギュッと唇を引き結び、高耶は無線を握り締めた。
ひとつ隔てた通りの角では、直江が花屋に入った容疑者を見張りながら、今か今かと千秋の許可を待っている。
この数日、現場に何度も通った。
あいつと二人で聞き込みして、絶対コイツだって容疑者を見つけて、やっとここまで来たんだ。
怯えた顔で声を震わせながら事情聴取に応えていた女中さん、
部屋に残されたナイフに付いていた指紋と泥だらけの靴跡、
逃げる姿を目撃した人々…
彼らの証言は、嘘なんかじゃない。
被害届の取り下げ?
そんなバカな!
なぜだ?
本当を嘘に変えるなんて…
何かある。
この事件の裏には、一体何があるんだ?
「わかった。すぐ署に戻る。」
プツッ…
無線の切れる音が、車を降りた後も耳に残っていた。
小説のコーナーに戻る
TOPに戻る