見ると、古びた赤いレンガの壁をバックに、白衣を来た数人の若者と年配の男性が笑顔で写っている。
その中に、中川と里見勇一の顔を見つけて、直江は思わず目をみはった。
「六年前の写真だ。中川は城南医大で、なんとかっていう難病の研究チームに入ってたんだってな。
なのに突然そこを辞めて、四国に帰った…出身地っつっても、身内も家も無いのにだ。」
その理由が知りたい。と高耶は言った。
写真の持ち主から、中川が仲間の手柄を横取りしようとしたのがバレて、
チームにいられなくなったと聞いたが、どうもそれは納得できないのだと。
「この街には中川の妹もいた。辞めたくなかったはずなんだ。
中川が六年前ここを離れた理由と、今になってまた戻ってきた理由は、きっと繋がってる。
あんた達は、それを知ってるんだろ?
だから迷わずこの街に来た…見つける自信があったって事だ。
もしかして、中川がしようとしてる事も、知ってるんじゃねえのか?」
高耶の言葉に、直江は驚きを隠せなかった。
フミを巡っての中川と里見の関係を知り、事件を揉み消した連中を確定したことで、
殆どを解明した気になっていた自分に比べ、高耶は中川と里見勇一の繋がりを、
こんなところまで掴んでいたのだ。
しかも高耶は今、中川が“した”ではなく、“しようとしている”と言った…
直江の脳裏に、あのときの中川と高耶の姿が蘇る。
そうだ、中川はあれが始まりだと言わなかったか?
(もし生きて会えたら…次は捕まえて下さい)
あの言葉は何を意味している?
まさか高耶は、中川がこれから起こすかもしれない事件を追って…
刑事は起きた事件の犯人を捕まえるのが仕事だ。
小さな交番ならイザ知らず、城北署のような組織には役割というものがあるのだ。
犯罪の予防や抑止をする防犯課に断りなく動けば、後で問題になる可能性が大きい。
今も上層部の思惑に背いた行動をしているとはいえ、
裏を知ろうとするのと、実際に中川を捕まえるのでは、雲泥の差がある。
たとえ中川が何かをしようとしているとわかっても、それが事件になって自分たちが捜査を担当するまでは、
手を出すわけにはいかない。
現状では、よほど決定的な証拠を見つけない限り…いや、証拠があってさえ、まずは課長を通じて防犯課に依頼するのが筋だ。
つまりどちらにしろ自分たちはカヤの外。
だからこそ直江は、事件の真相を知り、理不尽な上層部に影から思い知らせることしか考えなかった。
自分達が追っていた事件を、せめて納得のいく形で終わらせたい…それが望みだと思っていた。
だが高耶の場合、そうではなかった。
思えば出会った初日から、高耶は職務の領分を無視して突っ走っていたのだ。
(それでなくとも危険だというのに…
この事件を調べるだけでクビが飛ぶと言ったのは、あなたですよ?
全く…なんて人だ…)
そんな直江の心配をよそに、高耶と嶺次郎の話は先に進んでいた。
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