言葉の感じからすると、彼らは二人とも関西方面…
記憶にある中川の経歴と考え合わせれば、おそらく四国の人だろう。
年恰好は似ているが、顔もタイプも全く違う。
パッと思いつくのは幼馴染か同級生だが、その程度の関係で高耶がコンタクトを取ろうとするだろうか?
嘉田は、高耶の話を聞きに来たと言った。
つまり情報を得ようとしているのは、嘉田たちの方なのだ。
しかもこの態度…まるで高耶が何か重大な情報を餌に、彼らを呼び出したかのような…?
考えれば考えるほど、わからなくなる。
高耶は何をしようとしている?
何の為に、こんな…
気が付くと、嘉田と兵頭が小声で話をしていた。
どうやら中川のことらしい。
素知らぬ顔で珈琲を飲みながら、そっと耳を澄ました直江は、行方不明の妹という言葉に、
思わずカップを持ったまま、固まってしまった。
中川の妹といえば、里見家で働いていたフミしかいない。
行方不明?
いつからだ?
まさか…フミは四国に行っていないのか?
実はその後の調査で、フミと里見家の主人である勇一とは、数年前から隠れた恋愛関係にあったことが判っている。
ところが勇一は、フミが病気で辞めた後、すぐに病院長の娘と結婚してしまった。
まるで邪魔なフミを追い出したようなタイミングだと、直江でさえ思ったのだ。
それを知った中川が怒ったとしても無理は無い。
里見家が警察庁の幹部に働きかけて、あの事件を揉み消したのも、犯人がフミの兄だと知り、要らぬ醜聞が広まる前に手を打ったのだと思われた。
ただ、それを犯行の動機とするには、中川の態度や行動が、どうも腑に落ちなかった。
恐喝ならともかく、なぜ強盗なのだ?
しかも勇一のいないときを見計らったような平日の昼間だ。狙う相手が違うだろうと言いたくなった。
だが、フミが中川と会っていないなら、もし半年前から行方不明だったなら、話は全く違ってくる。
幼い頃に両親を喪い、施設に残った兄とも別れて、子供のいない夫婦に引き取られたフミは、
その養親も数年前に亡くしている。中川を頼らずに、どこへ行ったというのか…
最悪のケースを考えて、直江は愕然と二人の顔を見つめた。
「おんし…」
兵頭が眉を顰めて直江を睨んだ。
「頼まれただけっちゅう話やったが、思った通り何か知っちょるようじゃ。
丁度ええ。おんしの話を聞かせてもらおうか。」
見かけは兵頭より穏やかそうな嘉田だが、目の奥は鷹のように鋭く光っている。
逃げられない…
直江は心を決めて珈琲のカップを置いた。
フミのことを含め、こちらにも聞きたいことは山ほどある。
だが話すのは最低限に絞らねばならない。
素性を知られず、事件には触れず、なんとか相手から情報を引き出したいが…
「話といっても、私が知っているのは、中川さんのお顔くらいのもので…
それより先ほど少し話が聞こえてしまったのですが、フミさんが行方不明というのは…」
直江が言ったとたん、嘉田と兵頭の顔色が変わった。
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