クールという喫茶店は、高耶が言ったとおり駅のすぐ裏手にあった。
場所は悪くないのに、どことなくさびれた雰囲気が漂う店だ。
レジの女性に声を掛けると、
「そこの奥だよ。お連れさんが二人、さっき来たとこ。あんたもホットでいいかい?」
驚くほど気さくな応対に、直江は思わず苦笑を浮かべた。
喫茶店より小料理屋の方が、よほど流行りそうだ。
奥の部屋に入ると、意外に趣味の良い造りになっている。
とりあえず挨拶を交わし、直江は二人の向かい側に座った。
中川の友人は、長髪を後ろで括った男が嘉田嶺次郎、短髪でオールバックは兵頭隼人と名乗ったが、
職業や中川との関係は言わず、こちらの出方を伺うように直江を見つめた。
どちらも中川とは全くタイプが違う印象で、医者にもサラリーマンにも見えないばかりか、
目の鋭さや顔付きが一般人とは思えない雰囲気を纏っている。
明らかに適当な誤魔化しの効かない相手だ。
この2人から、高耶は何を聞き出そうというのか…
経緯すら知らない状態では、迂闊に話を進められない。
これでは本当に傍観者でいるしか無さそうだった。
「…というわけで、仰木は必ず参りますので…」
高耶を病院に連れていったこと、点滴が終わり次第ここに来ることを告げ、
それまで待って欲しいと頼む直江に、嘉田は腕を組んで渋面を向けた。
「うーん。難儀じゃのう。こっちも話を聞くまで帰れんっちゃ思うちょるが…」
「9時にはここを出ると言うちょったはずじゃ。こんな時に熱で病院?軟弱な!」
吐き捨てるような兵頭のセリフに、直江は思わず目を怒らせた。
高耶のことを知りもしないで、不当な評価を下す男が許せなかった。
「だからそれは、私が今日の約束を知らずに、無理やり病院に連れて行ったからで…」
「ご親切なことだ。」
ふんと鼻を鳴らして、兵頭は鋭い目で直江を見据えた。
冷えた空気が流れ、一触即発の火花が散りそうになった時、バンッと勢いよくドアが開いた。
「はい、お待っとさん。コーヒー3つに砂糖とミルク。
後は何か用があったら、そこのベルを鳴らして呼んどくれ。」
レジにいた女性が、ニッと笑って部屋を去る。
今度は静かにドアが閉まった。
呆気にとられて見ていた3人の目が、自然と珈琲カップに落ちた。
淹れたての良い香りが漂う。
ひとくち啜って、3人は一様にホッと息を吐いた。
「まあ、まだ時間はある。来るっちゅうんじゃ、待つとしよう。のう、兵頭。」
嘉田の言葉に、兵頭も黙って頷く。
落ち着きを取り戻した直江は、もう一度じっくり二人を観察した。
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