『夜明けの雪』-12

直江に無理やり連れて行かれた病院で、医師に叱られ渋々レントゲンと血液検査を受けた高耶は、
骨の治りは悪いものの、特に異常は見当たらず、寝不足と疲労が重なって熱が出たのだろうと診断された。

「良かったですね。点滴だけで済んで…」

枕元で直江が微笑む。
高耶は嫌そうに顔を顰めると、針の刺さった腕を眺めて盛大に溜息を吐いた。

「良くねえよ。ったく、俺は大丈夫だって言ってんのに…だから病院は嫌いなんだ。」

そういえば入院していた時も、早く退院したいだの、もう病院は嫌だのと、よく駄々をこねていた。
思い出すと可笑しくて、自然に笑いがこみ上げた。
高耶が恨めしげな目で直江を睨む。
その瞳さえ、今はなぜか心地よかった。

やがて薬が効いてきたのか、高耶は小さな寝息をたて始めた。
直江はベッドの横に腰掛けて、ポタリポタリと落ちる点滴を見上げていた。

本当は、傍についている必要などないのだ。
きっと高耶も、直江がここにいることを望みはしない。
けれど直江はどうしても、高耶を残して帰る気になれなかった。

カーテンで仕切られただけの空間を、しんと静かな時間が緩やかに流れてゆく。
点滴のパックが残り僅かになった頃、不意に高耶が目を覚ました。

高耶は数回まばたきして、ぼんやり天井を眺めた後、不思議そうな顔で直江の方に視線を移した。

「直江…?」

なんだか頭がボウッとする。
ここは…病院…?
何がどうなってるんだ?
どうしてこんなところに直江が…

夢の中をさまよっているようだった高耶の瞳に、ハッと光が戻った。

「しまった! 今何時だ?」

叫ぶと同時に起き上がろうとした体を、咄嗟に押さえつけられたのは、
直江の優れた反射神経の賜物というより、ほとんど偶然のようなものだった。

いつもと違って無防備で頼りなげな様子につられ、
半ば無意識に身を乗り出した時、いきなり高耶が動きかけたのだ。
あどけない子供のようだった表情は、あっという間に硬く厳しいものに変わっていた。

 

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