『夜明けの雪』-10

翌日、千秋から高耶が内勤になったことと、
すぐに防犯課の手伝いをするよう告げられた直江は、
何の文句も言わずに、大人しく了承した。

あまりに素直な態度で、不安を感じた千秋は密かに様子を窺っていたのだが、
直江は特に変わった様子もなく、毎日を淡々と過ごしていた。

だが直江は、捜査を諦めたわけではなかった。
直江は千秋や高耶の知らないところで、地道な捜査を続けていたのである。

 

一方高耶は、暇を持て余すだろうと思っていた内勤だったのに、
ずっと後回しにしてきた書類の提出と、かかってくる電話や無線の応対に追われ、
日中は中川の事件を調べるどころか、ゆっくり食事する時間もない状況になっていた。

それというのも千秋が殆どデスクにいない為、仕方なく代わりに電話や無線に出ているうちに、
いつの間にか高耶を名指しで連絡してくる相手が増えてしまったからで、
「それくらい自分で考えろ!」
「ンな事で、いちいち報告してくるなよ。」
などと言いながらも、ちゃんと話を聞いて、時には千秋に匹敵する判断力を発揮する高耶を、
このまま内勤にしておいてくれと望む声も少なくなかった。

実のところ、こうなることを見越して、わざといつも以上にデスクを離れていた千秋だ。
高耶が今の仕事に忙殺されていれば、上層部の厳しい監視の目も消える。
体のことも考えた一石二鳥の計画だったが、疲れているからと言って、帰宅後に早く寝る高耶ではない。
「マジで夜はしっかり寝ろよ。胸骨だからって甘くみてっと治らねえぞ。」
心配する千秋の忠告を笑顔で誤魔化し、
高耶は署を出た後、誰にも知られないよう用心しながら、
毎晩のように遅くまで、中川と里見家の接点を探し続けていた。

 

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