『with you』−7

 

あなたも、求めてくれている…
そう思っていいだろうか?

自分の願望を叶えたい故の、勝手な解釈かもしれない。
もし間違えていたら、拒絶されるだけでは済まないだろう。
記憶を失った今の自分が、そこまでする権利があるのか?
きちんと手順を踏んで、お互いの想いを育んで、それからだろう?

理性が『待て』と呼びかける。
だがもう、その声に直江は耳を貸さなかった。

行き先も告げず、車を走らせた。
いきなり無口になった直江を、どう思ったのか、
高耶は一度ちょっと窺うように顔を見たきり、何も言わなかった。
黙って外を見つめている、その胸の内で脈打っている鼓動を確かめたい。
早く…早く…

車を駐車場に止め、玄関のカギを開ける。
どうぞ、と高耶を中へ招き入れ、後ろ手に錠を締めた。
無機質な音が響いて、高耶が振り向く。
その顎を、そっと持ち上げて、直江は想いを込めて口づけた。

 

  

 

抱きしめた腕を、振りほどかずにいてくれる。
絡めた舌を吸い上げれば、高耶も吸う。
たまらない。
甘くて柔らかくて…蕩ける。

はっ…はぁっ…

耳に触れる吐息が熱を孕んで、
二人はもつれあうように、ベッドに倒れ込んだ。

記憶も戻っていない直江と、こんなことになるなんて、思ってもみなかった。
どんな顔で何を話せば良いのやら、わからなかったというのが正直なところだった。
落ち着かない気分で車に乗って、ちらりと直江の顔を見た。
その目が合った瞬間、ドクンと鼓動が撥ねた。

待っていたんだ。
ずっと…
自分でも知らなかったオレの本心…
それを、おまえは…

熱い肌と肌を合わせ、心のままに求め合う。
見つめ合い、指を絡ませる。
ポタポタと落ちる汗の滴さえも、甘い痺れを呼び起こして、
こんなにも欲しかったのだと思い知る。

ばかやろう。
オレを忘れるなんて…
ひとりにしないと誓ったくせに…

沸騰した頭で、他に何を口走ったのか、覚えていない。
怒って、泣いて、ぐしゃぐしゃになったオレに、
直江は幸せそうな顔をして、すみませんとかなんとか言いながら、
ついばむようにキスを落とし、甘い責め苦で追い上げる。

「もう…っ…直江…ああッ」

「言って、高耶さん。もっと欲しいって…声に出して…」

耳に入る卑猥な音、低く抑えた直江の囁きが、羞恥と快感に拍車をかける。
切羽詰まった喘ぎが、堪え切れずに口から零れた。

 

  

 

汗まみれの身体に、シーツが貼り付く。
ぐったりしている高耶の髪を、そっと掻きあげて微笑むと、
直江は起き上ってエアコンのスイッチを入れた。

この暑い中、冷房も入れずに抱くなど、本当に酷い男だと自分で思う。
けれど今の今まで、部屋の暑さに気付かなかったのだ。
夢中だった…あなたの他に、何ひとつ頭に浮かばないくらい…

汗が冷えて風邪をひかないよう、高耶の体を拭こうと風呂でタオルを絞る。
起きたらシャワーを浴びればいい。それとも湯をはって一緒に入ろうか。
そんなことを考えながら部屋に戻ると、高耶が目を覚ましていた。

「起きられますか?」

「シャワー浴びたい…けど無理みたいだな、誰かさんのせいで」

じろりと睨まれ、直江は苦笑を浮かべてタオルを広げた。
手際良く身体を拭いて、高耶が気持ち良さそうに目を閉じる。
やがて自分もシャワーを浴びた直江は、冷蔵庫の前でハッと足を止めた。

                                

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