誕生日だ!
7月23日は、明日は、高耶さんの誕生日じゃないか!
なぜ忘れていたのだろう。
カレンダーなんて、毎日のように見ていたのに…
今の今まで、思い出しもしなかったなんて!
どうしよう。
何の用意も出来ていない。
プレゼントは、何がいいだろう?
何か…高耶さんが喜ぶもの…
誕生日の贈り物に相応しいものは…
時間が無い!
早くしないと、高耶さんのバイトが終わってしまう。
ついさっきまで待ち遠しく思っていた時間を、
為すべきことが出来た途端に、足りないと嘆く。
だがそんな矛盾に気付く余裕が、今あるはずもなく、
直江は、焦れば焦るほど見つからない『これだ』と思えるものを探して、
広いショッピングモールの中を歩き廻った。
「大丈夫か?直江」
待ち合わせ場所に現れた直江を見て、高耶は思わず顔を覗き込んだ。
汗の滲む額、いつになく乱れた髪、なんだかとても疲れている様子に見える。
バイトが終わるまで待つと言ったのは直江だが、やはり止めさせておけば良かった。
高耶の胸に後悔が押し寄せた。
「やっぱ今日は止めよう。お前、早く家に帰ったほうがいい。」
心配そうな顔に、直江は慌てて首を振った。
「いえ、大丈夫です! 私はなんともありません。
そんなことを言わないで、高耶さん。さあ、乗ってください。」
満面の笑みを浮かべ、恭しく助手席のドアを開けて誘う。
まだ疑っている瞳を見つめて、もう一度しっかり微笑んで頷くと、
ようやく高耶が車に乗った。
少しホッとして、運転席に廻る。
プレゼントを見つけることは出来なかったが、
だからといって落ち込んで心配させるなど、本末転倒も甚だしい。
やっと会えたのだ。
シートに座ってドアを閉めれば、もう誰にも邪魔されない二人きりの空間。
手を伸ばせば、触れることさえ出来てしまう。
そこに、高耶がいるのだ。
心は自然に浮き立った。
エンジンを掛け、隣に目を向ける。
瞬間、目が合って、高耶の視線が不自然に泳いだ。
「どう…?」
どうしたんです?と言いかけて、直江は声を呑みこんだ。
こっちを見るなというように、そっぽを向いた高耶の、耳がほんのり赤くなっている。
早鐘を打つ心臓を、感じた。
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