『with you』−8

 

再び目を覚ますと、もう深夜になっていた。
直江が頼んでくれていた宅配ピザで腹を満たし、シャワーも浴びて、
リビングのソファーで寛いでいると、ふとキャビネットに置かれた写真が目に入った。

「これ、オレの写真…? こんなの、いつ撮ったんだ?」

「高耶さん、覚えてないんですか?」

キッチンに行っていた直江が、肩越しに覗いて尋ねる。
そこに写っているのは、マグカップを手に、こちらを見上げる高耶の顔だ。
今にも話しかけてきそうな、とても自然で柔らかな表情をしている。

「覚えてない…っつうか、お前、いつの間に…」

これを撮ったのは、きっと直江だ。
場所は多分、ここの寝室。
マグカップを持ってるから、きっと泊まった翌朝だろう。
カメラを構えてるそぶりなど、ちっとも見せなかったのに…

「まさか他にも撮ってんじゃないだろうな。」

「やめて下さい。隠し撮りなんて、していません。…と思います…」

  なんといっても高耶に関しては、記憶が殆ど戻っていない直江である。
自信を持って断言できないところが辛い。

「ですが、この写真は私の机の引き出しに、大切にしまわれていたんです。
 他には見当たりませんでしたし…」

本音を言えば、隠し撮りでもなんでも、もっと撮っておいて欲しかった。
そうすれば二人の関係にも、きっと自信が持てただろう。
日記でも手帳でもパソコンでも、記録しておくぐらい簡単なことだ。
なのに、どうして…

過去の自分に文句を言っても始まらない。
けれどもし、高耶の好きなものや欲しがっているものが、わかっていたなら…

ポーンと0時を告げる時報が鳴った。

「高耶さん、お誕生日おめでとう。」

直江はシャンパンを開けて、ふたつのグラスに注いだ。

「プレゼントが無くてすみません。これしか用意できなくて…」

記憶を失くしていなければ、きっと高耶の喜ぶものを贈れただろう。
この日の為に、最高のものを用意して、どんな贅沢でもさせてあげられたはずだ。
それなのに今の自分は、高耶の為に何も出来ない。
好きなものも欲しがっているものも、なにひとつ知らない。

誰よりも何よりも大切な人の、誕生を祝う。
その為に出来たのは、シャンパンだけ…
たったこれだけ…

「バカだな。プレゼントなら、もう…のを貰ってる。」

ぼそっと呟いた言葉が聴き取れなくて、「え?」と聞き返すと、
高耶は聞こえなかったふりで、グイっとシャンパンを飲み干した。

「おかわり。美味いな、これ。」

ちょっと赤く染まった頬が、照れくさそうに横を向く。
差し出されたグラスにシャンパンを注ぎ、直江は高耶の隣に腰かけた。
高耶が顔を上げて、直江を見つめる。
その肩を、そっと抱き寄せて口づけた。

軽くグラスを合わせて乾杯する。
きらきらと輝く泡の向こうに、高耶の笑顔が見えた。

      あなたという存在が、生まれた日に乾杯

   巡り合えた幸せに、乾杯

   ずっと、ずっと、この先もずっと

   あなたと共に…

 

 

            2013  7  23

           (2013 11 11)

 

高耶さんの誕生日に書きあげるはずだったお話が、遅れに遅れて、11月11日になってしまいました。
でも、幸か不幸か、ペアの日ではないですか。ある意味『with you』の日だよね♪(←超こじつけ/^^;)

なにはともあれ、記憶があろうと無かろうと直江は常に高耶さんを求め、高耶さんもまた然りという…
甘いお話、楽しんで頂けますように(^^)

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

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