再び目を覚ますと、もう深夜になっていた。
直江が頼んでくれていた宅配ピザで腹を満たし、シャワーも浴びて、
リビングのソファーで寛いでいると、ふとキャビネットに置かれた写真が目に入った。
「これ、オレの写真…? こんなの、いつ撮ったんだ?」
「高耶さん、覚えてないんですか?」
キッチンに行っていた直江が、肩越しに覗いて尋ねる。
そこに写っているのは、マグカップを手に、こちらを見上げる高耶の顔だ。
今にも話しかけてきそうな、とても自然で柔らかな表情をしている。
「覚えてない…っつうか、お前、いつの間に…」
これを撮ったのは、きっと直江だ。
場所は多分、ここの寝室。
マグカップを持ってるから、きっと泊まった翌朝だろう。
カメラを構えてるそぶりなど、ちっとも見せなかったのに…
「まさか他にも撮ってんじゃないだろうな。」
「やめて下さい。隠し撮りなんて、していません。…と思います…」
なんといっても高耶に関しては、記憶が殆ど戻っていない直江である。
自信を持って断言できないところが辛い。
「ですが、この写真は私の机の引き出しに、大切にしまわれていたんです。
他には見当たりませんでしたし…」
本音を言えば、隠し撮りでもなんでも、もっと撮っておいて欲しかった。
そうすれば二人の関係にも、きっと自信が持てただろう。
日記でも手帳でもパソコンでも、記録しておくぐらい簡単なことだ。
なのに、どうして…
過去の自分に文句を言っても始まらない。
けれどもし、高耶の好きなものや欲しがっているものが、わかっていたなら…
ポーンと0時を告げる時報が鳴った。
「高耶さん、お誕生日おめでとう。」
直江はシャンパンを開けて、ふたつのグラスに注いだ。
「プレゼントが無くてすみません。これしか用意できなくて…」
記憶を失くしていなければ、きっと高耶の喜ぶものを贈れただろう。
この日の為に、最高のものを用意して、どんな贅沢でもさせてあげられたはずだ。
それなのに今の自分は、高耶の為に何も出来ない。
好きなものも欲しがっているものも、なにひとつ知らない。
誰よりも何よりも大切な人の、誕生を祝う。
その為に出来たのは、シャンパンだけ…
たったこれだけ…
「バカだな。プレゼントなら、もう…のを貰ってる。」
ぼそっと呟いた言葉が聴き取れなくて、「え?」と聞き返すと、
高耶は聞こえなかったふりで、グイっとシャンパンを飲み干した。
「おかわり。美味いな、これ。」
ちょっと赤く染まった頬が、照れくさそうに横を向く。
差し出されたグラスにシャンパンを注ぎ、直江は高耶の隣に腰かけた。
高耶が顔を上げて、直江を見つめる。
その肩を、そっと抱き寄せて口づけた。
軽くグラスを合わせて乾杯する。
きらきらと輝く泡の向こうに、高耶の笑顔が見えた。
あなたという存在が、生まれた日に乾杯
巡り合えた幸せに、乾杯
ずっと、ずっと、この先もずっと
あなたと共に…
2013 7 23
(2013 11 11)
なにはともあれ、記憶があろうと無かろうと直江は常に高耶さんを求め、高耶さんもまた然りという…
甘いお話、楽しんで頂けますように(^^)
←□
小説のコーナーに戻るTOPに戻る