あれから2カ月。
季節は梅雨を越して、今はもう7月も半ばを過ぎた。
眠れない夜にも、いつのまにか慣れてしまった。
もしかしたらアイツにとって、こうなることが幸せだったのかもしれない。
そう思った。
思うしか…無かった。
「暑っいなー」
「ったく、この炎天下にバイトは辛いぜ」
したたる汗を拭って、空いたスペースに車を誘導する。
ショッピングモールの駐車場は、今日も嫌になるほど混んでいる。
出てゆく車が途切れたのを見計らい、高耶は並んだ車の列に駆け寄った。
ビラを渡し、少し離れた駐車場への移動を促す。
何台かの車を送り出し、次の車に目を向けた瞬間、
凍りついたように高耶の動きが止まった。
開いた窓から、ドライバーが顔を出す。
放っておくわけにはいかず、高耶は覚悟を決めた。
小さく息を吐き、ポーカーフェイスを装ってビラを差し出す。
「すいません。ここ満車なんで、こっちの駐車場に…」
「仰木さん! 仰木高耶さん!」
抑えた声で、けれど有無を言わせない力があった。
ビラと一緒に手を握り、
「すぐ戻ります。待っていて。」
素早く告げて走り出したベンツは、たちまち視界から消えた。
「なんで、お前がこんなとこに…」
呟いて、ざわめく胸に舌打ちをする。
記憶が戻らなくても、もう一度やり直すことが出来るかもしれない。
そんな儚い期待を、まだオレは抱いていたのか?
オレと直江を繋いでいたものが、とても脆くて壊れやすいものだったのだと、
この2か月で思い知ったはずだった。
普通なら、愛し合うなんて考えもしない男と男。
オレとのことを、すっかり忘れているのに、実は恋人なんです、なんて言えやしない。
しかも、アイツは…
胸の痛みが治まらない。
溜息のループが始まりそうになって、高耶はグッと歯を食いしばった。
顔を上げ、急いで次の車に向かう。
「直江のバカ野郎」
記憶喪失が直江のせいではないと知りながら、今は言わずにいられない高耶だった。
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