タイガースアイ『前進』−2


「そういえば来週から期末だよね。今日、俺んちで勉強会する?」
放課後。譲の問いかけに、高耶は「う〜ん」と椅子にもたれて教室の天井を見上げた。
勉強会と言っても、譲と千秋はトップクラスの成績である。一緒に勉強するというのは名ばかりで、
本当は高耶のために教えようとしてくれているのだ。
(お前の勉強を邪魔してるだけじゃねえか…)
譲の気持ちは嬉しい。けれど、それに甘えてはいけないと思った。
「悪りぃ。俺、ちょっと用があるんだ。」
「ふうん…。そっか…。じゃ、しょうがないね。」
がっかりしながら、譲はしぶしぶ引き下がった。
(高耶のばか。用事なんかないくせに・・・)
もっと頼ってくれてもいいのにと思う。だが、ここで無理に誘って困らせたくはない。
帰り支度を始めた高耶の傍を離れて、譲は千秋の席へと向かった。
「なあ、千秋。高耶を上手に誘うのってどうすればいいと思う?」
「んなの簡単じゃん。来て欲しいって頼みゃいんだよ。お前の頼みなら断わんねぇだろ。」
千秋の即答に、譲は口を尖らせた。
「それじゃだめなんだよ。高耶が自分から行くって言わなきゃ、意味無いんだ。」
真剣な譲を見て、やれやれ・・と溜息をついた。
「おまえなあ。そんなの待ってたら、じいさんになっちまうぞ。」

高耶は、大人しい控えめな人間などではない。
やろうと思えばとことんやるし、あの瞳にものを言わせて人を従わせもする。
態度もでかくて、人の思惑どおりに動いたりしない。
だが自分の都合で他人に無理を言った事は、千秋の知る限り、一度だってなかった。
もちろん、高耶から遊びに誘ってくるときもあれば、おごらされたこともある。
(それでもあいつはどんなときも、こっちの負担になっていないか気にしてやがる。)
自分のことで人に無理をさせるのが、たまらなく苦手なのだ。
譲はそれをよく知っていた。
だからこそ、高耶に知って欲しいと思う。
頼ってくれたら、どんなに嬉しいかってことを。

「高耶がやってくれって言うなら、なんだってするのになあ。」
「おいおい。それってふつう彼女とかに言わねえ?」
茶化しながら、千秋は譲と同じことを思っている自分に気付いていた。
(お前が願うなら、なんだって喜んでやってやるよ。)
「んなこと、言ったって本気にしねぇよなあ…。ってか、知られたらマジ死にそう。」
机に頬杖をついて、思わず吐いた呟きに、
「へぇ〜千秋でもそんなこと思うんだ。なに、どんな彼女?」
目を丸くして訊いてくる譲に、千秋はバッタリと机に突っ伏した。

裏表紙に戻る

TOPに戻る