『千秋を追え!−2』

立ち止まった影を見て、高耶の心臓がトクッと鳴った。
「どうしたんです?高耶さん。」
背後から不思議そうに話し掛けてきた声に、体が固まる。
「…別に…どうもしねぇよ。」
短く答えて、高耶は振り向けないまま、地面を見つめた。

チケットの事も、隠し撮りの事も、直江には何も話していなかった。
なんだか言いそびれてしまったのだ。
思わず感じた後ろめたさと、だけど今更そんな言い訳めいた話なんか出来るもんかと反発する心が、
高耶の中でグルグル渦巻いて、どうすればいいかわからない。

眉を寄せて地面を睨んでいる高耶に、直江は何気ない素振りを装って、素早く耳元に顔を近づけると、
「千秋君なら、さっき校門を出ましたよ。」
囁いて高耶の瞳を覗き込んだ。

弾かれたように直江を見た瞳が、戸惑いに揺れている。
直江は小さく息を吐くと、微笑んで頷いた。

「聞かなくても、あなたを見ていればわかります。急ぐんでしょう?早くお行きなさい。」
「直江…」
高耶は直江を見つめて、
「隠してたんじゃないんだ。後で…後で行く!」
それだけを口にして走り去った後ろ姿を、直江は追いかけたい気持ちを抑えて見送った。

高耶の視線が千秋を追っていると気付いてから、気になって堪らなかった。
声を掛けた時は、不自然な様子に、危うく心臓が凍りかけた。
だが間近で澄んだ瞳を見れば、全てを圧倒する勢いで愛しさだけが溢れだす。
だから…
直江は強い日差しが照りつける校庭を横切り、真っ直ぐ校舎に戻っていった。

門を飛び出した高耶は、しばらくして千秋を見つけた。
なぜか千秋は、帰り道とは違う方向へ歩いてゆく。
こっちだと人通りが多い上に、ちょっと先は賑やかな繁華街だ。
高耶は軽く舌打ちして、こっそり後をつけた。

「デジカメだから、とにかく何でも撮っとけば良いんだ。
 きっと1枚くらいは使える写真が撮れるよ。頑張れ、高耶!」

…って譲は言ってくれたけど、なかなか撮れるもんじゃない。
景色を写すならともかく、相手は千秋なのだ。
カメラを構えてズームにして…なんて悠長にやってる間に、どんどん先に行ってしまう。
その上いつもは気付かなかったが、千秋には驚くほど知り合いが多かった。

「よう!」とか「今日は1人?」とか「これから買い物?」とか、男女を問わず声が掛かる。
その度に笑ったり手を振ったりする千秋を見て、高耶は少し感心してしまった。

まだ続いてます…(滝汗)すみません!もうちょっとで終わるはずなの〜(^^;

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