「…ったく、姉さんも何でアイツの写真なんか…」
ハァ〜と溜息をついて、高耶は途方に暮れた顔で、学生だらけの広い校庭を見回した。
いつもなら探さなくても向こうからやってくるのに、こんな時には見つからない。
まるで俺の心を見透かしてるみたいだ…と思いながら、高耶は汗で濡れた髪を手で乱暴に掻き上げた。
隠し撮りなんて、したくない。
だけど…
事の発端は、綾子が自慢げに見せた1枚のチケットだった。
美弥が大好きなロックバンド『ファンタジスタ』の限定ライブ。
欲しくても手に入らないと嘆いていたチケットを、綾子は3枚も持っていると言うのだ。
2枚あれば、美弥を連れて行ける!
「姉さん!頼む。その2枚、譲ってくれ!」
「そうねえ…どうしよっかなぁ〜♪」
本当は高耶と譲が欲しがるんじゃないかと思って、声を掛けた綾子である。
だが、あまりに熱心な高耶に、ふと悪戯心が湧いた。
「わかった。じゃあ、あんたが撮った千秋の写真と交換したげる。
もちろん普通に撮ったんじゃダメよ。あいつに気付かれずに撮るの。出来る?」
「千秋の写真?」
目を瞠って、高耶は深刻な顔で黙り込んだ。
高耶の性格からすれば、隠し撮りなんて嫌だと思っているのは明白で、
だから綾子は、最初から代わりに高耶の写真をくれと言うつもりでいた。
千秋の写真を貰うより、嫌がる高耶に指図して、あれこれポーズをつけさせる方が、遥かに楽しいに決まっている。
ところが高耶は、
「それ、姉さんだけだよな? 他の誰にも見せたり渡したりしねえな?」
怖いほど真剣な瞳で念を押すと、ギュッと唇を結んで、撮って来ると約束したのだ。
そんなつもりじゃなかったのに…
悔やむ綾子の心も知らず、高耶は譲にデジタルカメラを借りて、翌日には朝から千秋を追っていた。
でも…捕まらない。
朝も早起きして家の近くで待っていたら、もう出た後だった。
学校まで半時間なのに、8時に家を出るなんて、どうかしてる。
始業は8時45分。真面目な生徒なら当然の時間なのだが、遅刻常連の高耶にわかるはずはなかった。
その後も、カメラを没収されるとマズイので、放課後までは手を出せなくて、やっと…と思ったら、どこに行ったかわからない。
困り果てた高耶の前に、スッと長い影が差した。
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