『寒い日の過ごし方』-2

体を暖める方法といえば、やはりこれだろう。
直江がにっこり笑って近づこうとした時、
「俺は資料の確認が残ってる。邪魔は許さないからな。」
机の書類を見ながら、高耶はビシッと釘をさした。

お見通しということか…心の内で苦笑して、直江は更に近づいた。
「邪魔なんてしませんよ。手伝うだけです。」
寒いと指も動かないでしょう? と言うと、
高耶の後ろに廻って、体ごと包み込むように覆いかぶさった。
「これのどこが手伝いだ!」
確かに寒くはない。でもこれじゃ身動きも出来ない。

直江は顔色も変えず、文句を言う高耶の手から、書類を取り上げて開いた。
「確認するのは、これとこれですね?」
別々の書類を器用に引き寄せ、高耶の前に示してみせる。
「どうしたんです。後ろから抱いたくらいで動揺してるの?」
明らかに挑発してくる男の態度に、高耶はムッと口をつぐんだ。

誰が動揺などするものか!
目の前の書類に集中して、次々と確認作業を進める高耶を見つめ、
直江は密かにほくそえんだ。

背中から包み込まれるのは、暖かくて心地よい。
けれど今日の直江から感じるのは、そんな優しい温もりだけではなかった。
穏やかな陽だまりとは程遠い、もっとずっと激しい熱情。

必要なデータだけを選んで示す直江の手は、何の迷いも感じさせない。
的確な判断と素早い動きは、痒いところに手が届くというよりも、
痒いと感じる前に既に手が伸びているという感覚で、
山のようにあった高耶の仕事が瞬く間に片付いていく。

この男のことだから、元々は高耶の仕事を早く終わらせてしまおうと始めたことだったに違いない。
そして同時に、冷たくなった体を温めてくれようとしたのだ。
けれどそんな直江の思いを知っていながら、高耶は仕事を切り上げようとはしなかった。

押し殺した欲情が、背後の熱に煽られて体の奥から競り上がる。
長い指の繊細な動きに、違う意味を重ねて見てしまう。
いつのまにか熱は自分の中から生みだされ、疼くような火照りに変わっていた。

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