「どうしたんです? そんな顔をして」
部屋に入ってきた男は、優しく微笑みながらそっと高耶の顔を覗き込んだ。
「そんな顔って… どんな顔だ?」
訝しげに見返した瞳を、愛しげに見つめると、男は何も言わず高耶の肩を抱きしめた。
「何…する…」
くちびるで塞がれて紡げなくなった言葉のかわりに拳が背中を叩いても、男は優しいキスからもっと深い、貪るようなくちづけに変えただけだった。
やがて甘い吐息の余韻を残して、ゆっくりと唇が離れた。
荒くなった呼吸を整えながら、抗議するように睨んだ高耶の頬を、直江のひんやりとした手が、あたたかく包み込んだ。
「寒くなくなったでしょう?」
その言葉に、自分が寒そうな顔をしていたのだ、と気付いた高耶だったが、
「…もっと他に方法があんだろ…」
口に出たのは、素直じゃない言葉だ。
俯いてしまった高耶に、
「そうですね。他の方法を試しましょうか」
と直江が嬉しそうに言った。
思わず顔をあげると、いたずらっぽい微笑みが目に入った。
「他の方法って…?」
一体なにを思いついたのだろう?
微かな不安を感じながら、高耶は直江の返事を待った。
最初はキスだけのつもりだった。
だが頬を紅潮させ、潤んだ瞳で睨む高耶を目の前に、それだけで終わるのは苦しい。
このままベッドに連れ去りたい …
そんな誘惑に駆られていた直江に、高耶の言葉は絶好のチャンスを与えた。
「もっと温かくなる方法ですよ。」
耳元で囁いた直江の声は、語らなくても、その方法を高耶の体に教えていた。
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