「仕事と私とどっちが大事?」
なんて、直江も高耶も言ったりしない。
そんな問題ではないとわかっているからだ。
それでも時々、自分だけを見ていて欲しくなる。
仕事なんかと張り合ってどうする?
そう自問自答するのは、今日に限ったことではなかったが…。
広げた書類を入れ替えながら、直江はそっと高耶の横顔を伺った。
ほんの少しだけ紅みがさした頬は、もう寒そうには見えない。
口元に手をやって、じっと考え込む姿を見ているうちに、
直江は高耶の手から何もかもを取り上げてしまいたい衝動に駆られた。
顔をあげて
その瞳を、俺に向けて
俺だけに…
資料をめくる指が、ふいに止まった。
「直江?」
思わず振り向いて見上げた高耶の顔を、直江の指がゆっくりと撫でた。
顎から耳へと輪郭を辿る指先に、震えるような吐息が漏れた。
見つめあう瞳に互いの姿だけを映して、時が動きを止める。
重なる鼓動を遮るものは、もうどこにもなかった。
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