『魔法使いのピクニック‐7』

 

全員に怪我が無いのを確かめて、千秋は改めて周囲を見回した。
見覚えのない場所だ。
だがこんな綺麗なコスモスの花畑が、自然に出来るとは思えない。
人間界ならば、どこかに人の波動が残っているはずだが、
それがないということは、やはりここは魔法界なのだろう。
でも魔法界なのに、ここがどこなのか検討もつかない場所とは…

考えれば考えるほど、ヤバい気がする。
入ってはいけない場所に、入ってしまったような気がしてならない。
普通なら有り得ないことだが、高耶と一緒にいると、その『有り得ない』が起きてしまうことがある。
千秋は慎重に辺りを探った。

「なにやってんだ? 千秋?」
不思議そうな顔で尋ねる高耶に、
「見りゃわかるだろ。ここがどこか探ってるんだ。
まさかと思うが、もし俺の勘が当たってたら…」
言いながら、千秋は眉間に皺を寄せた。

「何やってんだ?」
「なにって…見てわかんねえのか?」
そりゃわかる。
わからないのは、今ここでそれをするお前の神経だ〜!
と言いかけて、ガックリ肩を落とした。

銀青とオパールが、高耶が広げた弁当から、おにぎりを貰って食べている。
「俺の分…」
情けない顔で見上げた千秋に、高耶は「まだあるから…」と笑って、おにぎりをひとつ手渡した。

 

空は快晴。澄んだ空気が清々しい。
そしてそこに、食欲をそそる香りを漂わせて、手作り弁当が差し出される。
大きなおにぎり、鳥の唐揚げ、甘辛こんにゃく、玉子焼き。
青菜の塩炒めとジャガイモの竜田揚げが入り、添えられたミニトマトも甘くて美味い。
とくれば、考えてもわからないような先の心配なんて、
ちょっと後回しでもいいと思えてくるのも、無理はないだろう。

そんなわけで千秋は、弁当箱が空になり、食後のコーヒーを楽しむ頃には、
すっかり最初の緊張感を忘れてしまっていた。

「ん〜♪美味かった。やっぱ弁当は良いな。ちび虎、やっぱ俺んちの嫁に来てもいいぞ。」
上機嫌で高耶の肩をポンと叩くと、
「ばか。男が嫁に行くか。っつか来てもいいって何だよ。言うなら来て下さい、だろ?」
高耶はいつものように言い返して、軽く千秋を睨んだ。
悪戯っぽい瞳が、笑いながら見つめている。
トクンと胸が鳴った。

「来て下さいって頼んだら、来るのか?」
来るはずがない。
わかっていて、唇が勝手に言葉を紡いだ。
声に混じった本気を、知られたくなくて千秋は笑った。
「なんてな。だぁれがおまえなんかに頼むか。」
ムッと唇を尖らせる顔が、すぐに綻んでプッと吹きだす。

この関係がいい。
ずっと…このままがいい。

千秋は立ち上がって、足に付いた草を払った。

 

 

すっかり和んでいる二匹の竜と二人ですが、さてこれからどうなるんでしょう?
空の青さとは別に、ピクニックの雲行きは少々怪しい気配だったり…(^^;

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

 

拍手ログに戻る

小説のコーナーに戻る

TOPに戻る