冗談じゃない!と言いながら、
自分の口笛に応じて出てきた竜を前にして、キラキラと瞳を輝かせる高耶の姿は、
言葉とは裏腹に、この状況を楽しんでいるように見える。
(やっぱコイツは、こういう奴だよな)
千秋はフフッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
ケンシンが何を思って、高耶に加護を与えたのかは知らないが、
こうなってしまった以上、直江がどんなに庇っても、いつかは危ない目に遭うこともあるだろう。
そのとき高耶の力になってくれるものは、ひとつでも多い方が良い。
ここに来たのは、その為だ。
飛竜には、ギルドに入って一般のタクシー業をしているものと、
この谷に棲む、はぐれ者と呼ばれる竜がいる。
はぐれ者は、気が荒くて誇り高く、自分が認めた者しか相手にしない。
だが認めた相手には、心から味方になってくれるという、願っても無い竜なのだ。
但し認められるかどうかは、本人次第。
直江が知っていれば、絶対に止めさせたはずの賭けである。
案の定、高耶は竜の背中にしがみついたものの、思いっきり振り回されていた。
鎖をしっかりと握り締め、首にしがみついていても、
振り落とされないでいるのが精一杯だ。
だが高耶は、それでも怖がる素振りを見せなかった。
相手が何であれ、気持ちで負けたら、本当に負ける。
長い我慢比べに、竜が苛立ってグルグル唸った。
「いくら揺さぶっても俺は降りない。いいかげん諦めろよ!」
高耶が諭すように言ったとたん、竜はブルッと大きく頭を振って、空高く舞い上がった。
直江の箒や千秋の飛行機に、乗せてもらったことはあっても、
そこに命の危険を感じたことは無かった。
直江も千秋も、高耶を危ない目に合わせたくないと、思っているのがわかったからだ。
でも今は違う。
竜は高耶を落とす為に、全力で上空へ向かっていた。
「キュイイィ−ッ!」
鼓膜をつんざく雄叫びが、千秋の間近で上がった。
あっと思う間もなく、竜は千秋を乗せたまま、高耶の竜を追って空へ駆けていた。
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