『魔法使いのピクニック‐4』

 

千秋の口笛に応えて現れたのは、鋭い牙と爪のある獰猛な顔つきの翼竜だった。

虹色に光る鱗で覆われた体は、長い首と尻尾を伸ばして5mくらいだろうか。
天使みたいな純白の翼が、妙にアンバランスで似合ってない。

「こいつが飛竜…」
頭上に近づく姿を見上げて、思わず呟いた高耶の声に、
スピードを落とした竜が、ギョロリと冷ややかな目を向けた。

値踏みするような竜の目に、ムッとして高耶が睨み返す。

竜と高耶の間に、不穏な空気が流れた時、
「おいおい、お二人さん。俺を忘れちゃ困るって。」
竜の真下に回った千秋が、素早く竜の首に掛けられた鎖を掴んで、サッと背中に飛び乗った。

「グァォウ!」

竜が不満を露わにして、千秋を振り落とそうと体を揺する。
だが、どんなに首を曲げても、牙を剥いて頭を振っても、
余裕たっぷりな千秋が、鎖をしっかり掴んだまま放さないとわかると、
竜は少しふてくされた顔で、
「グァ?」
と言って首を傾げた。

どうやら行き先を訊いているらしい。
と気付いて、ようやく高耶は『飛竜タクシー』という名前を思い出した。
その時は、単なる会社の名前だとばかり思っていたのだ。

まさか本物の竜だったとは…
しかもこれが客に対する態度なら、乗るのは余程の物好きだろう。

おとなしくなった今ならともかく、乗りこなすのは大変だな。と思いながら、
「後ろに乗れ」と首で合図する竜の背中に近づいた。
竜が尻尾を高耶の前に差し出して、「乗れよ」と言わんばかりに、パタパタ降ってみせる。

足を乗せようとした高耶に、千秋はニッと笑って
「ストップ!」
と声を掛けると、竜の首を優しく撫でて、宥めるように話しかけた。

「悪いが、こいつには別の相手が必要なんだ。ちょっと待ってやってくれ。」

千秋の言葉に、竜と高耶がほとんど同時に低く唸った。

  

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