千秋の後に付いて、直江のエリアを出ると、そこはいつもの見慣れた通りでは無かった。
「どうなってんだ? ここは…」
どう見ても日本じゃない風景が、目の前に広がっている。
起伏のある赤茶けた大地には、丈の低い灌木が所々に生えているだけで、
それも緑というより薄茶の印象が強い。
しかも、だだっ広い荒野の真ん中、自分達が立っている足元を見下ろすと、
思わず息を呑むほど深い谷が、ほんの1m先に果てしない裂け目を造っているのだ。
これで驚かないほうがおかしい。
「ここはどこだ?…って顔だな。」
千秋がニヤニヤ笑いながら、高耶を試すように見た。
(このやろう…面白がってんな…)
「竜の谷」
知らないと言うのが悔しくて、思い浮かんだ名前を言ってやる。
すると、千秋の目がまん丸になった。
「残念。飛竜の谷だ。
ヘェ〜…お前ちゃんと覚えてたんだ。意外だったな。」
(いや、俺のほうが意外だ…)
とは口に出さず、高耶は曖昧な笑顔で胸を張った。
「じゃ、飛竜の事も知ってるな? まず俺が呼ぶから、よく見て真似ろ。」
そう言うと千秋は、高耶が知ったかぶりを悔やむ暇もないうちに、
「ピィーッ!」
と高らかに口笛を吹いた。
谷の底から、風を斬る音が聞こえた。
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