「…どういう意味だ…」
心臓がドクドクと嫌な音を立てる。
まさか…ここを壊すと言うのか?
もちろん建物にも絵にも、強力な保全の魔法が何重にも掛けられている。
だが…
「わからぬか? おまえが教えてくれた方法を、ここで試すのも良かろう?
我が館より壊れ易いだろうがな。」
ノブナガは美味そうに紅茶を飲み干すと、
「うむ。悪くない。」
頷いて館長に目をやった。
館長は、不自然なほど静かに座っている。
「館長に何をした!」
魔法を使った気配は無かった。なのに…
直江の口から絶望の呻きが漏れた。
「呼ぶがいい。あの魂が来れば、今度こそ我が手から逃さぬ。
ふふふ…どうだ?おまえの返事ひとつで魔法界の宝が喪われる。二度と戻らぬ宝が!」
愉しげに笑うノブナガを睨みつけて、直江は強く拳を握り締めた。
蒼白な顔には、激しい葛藤と悲壮な決意が浮かんでいる。
「呼ぶものか。おまえが何をしても、何と引き換えでも、あの人は渡さない。
魂だと…?許さない…魔王ノブナガ! その手を叩き潰してやる!」
叫ぶ間に、怒りで頭が真っ白になった。
膨大な魔力が身の内で膨れ上がる。
だがノブナガは、立ち上がって傍らの女神を抱き寄せると、
「笑止。アレを捕らえるなど、おまえの手など借りずとも容易いわ。」
肩を竦めて、直江に向かって右手を突き出した。
そのままスッと手を滑らせると、館長の目の前でパチンと指を鳴らす。
「あ…?すみません。どうしたのでしょう。私としたことが、ぼうっとしてしまって…。もうお帰りですか?」
慌てて立ち上がった館長の横で、直江は放出しそびれた魔力の大きさに、目眩を覚えて自分の右腕を押さえた。
あのまま爆発させていたら、直江自身が美術館を壊していたかも知れない。
しかも多分ノブナガは逃げている。最悪だ…。
歯を食いしばる直江の前で、ノブナガは素知らぬ顔で館長に握手を求めた。
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