『魔法使いのピクニック‐30』

 

「…どういう意味だ…」

心臓がドクドクと嫌な音を立てる。
まさか…ここを壊すと言うのか?
もちろん建物にも絵にも、強力な保全の魔法が何重にも掛けられている。
だが…

「わからぬか? おまえが教えてくれた方法を、ここで試すのも良かろう? 
 我が館より壊れ易いだろうがな。」

ノブナガは美味そうに紅茶を飲み干すと、
「うむ。悪くない。」
頷いて館長に目をやった。

館長は、不自然なほど静かに座っている。

「館長に何をした!」
魔法を使った気配は無かった。なのに…

直江の口から絶望の呻きが漏れた。

「呼ぶがいい。あの魂が来れば、今度こそ我が手から逃さぬ。
 ふふふ…どうだ?おまえの返事ひとつで魔法界の宝が喪われる。二度と戻らぬ宝が!」

愉しげに笑うノブナガを睨みつけて、直江は強く拳を握り締めた。
蒼白な顔には、激しい葛藤と悲壮な決意が浮かんでいる。

「呼ぶものか。おまえが何をしても、何と引き換えでも、あの人は渡さない。
 魂だと…?許さない…魔王ノブナガ! その手を叩き潰してやる!」

叫ぶ間に、怒りで頭が真っ白になった。
膨大な魔力が身の内で膨れ上がる。

だがノブナガは、立ち上がって傍らの女神を抱き寄せると、

「笑止。アレを捕らえるなど、おまえの手など借りずとも容易いわ。」

肩を竦めて、直江に向かって右手を突き出した。
そのままスッと手を滑らせると、館長の目の前でパチンと指を鳴らす。

「あ…?すみません。どうしたのでしょう。私としたことが、ぼうっとしてしまって…。もうお帰りですか?」

慌てて立ち上がった館長の横で、直江は放出しそびれた魔力の大きさに、目眩を覚えて自分の右腕を押さえた。

あのまま爆発させていたら、直江自身が美術館を壊していたかも知れない。
しかも多分ノブナガは逃げている。最悪だ…。

歯を食いしばる直江の前で、ノブナガは素知らぬ顔で館長に握手を求めた。

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

 

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