『魔法使いのピクニック‐26』

 

直江の箒で家に帰る間、ふたりは何も話さなかった。
話したいこと、聞きたいこと、互いにいっぱいあるはずなのに、なぜかひとつも浮かばなかった。

体に伝わる温もりが、ただ愛しくて、何よりも大切で…

深い夜のしじまに溶けて、二人を乗せた箒は、静かに星空を飛んでいた。

 

ようやく家に帰り着き、ドアを開けて中に入ったとたん、ホゥッと息を吐いた二人は、思わず顔を見合わせて笑った。
「ただいま、直江。」
「お帰りなさい、高耶さん。」
見つめあって、どちらからともなく唇を重ねた。

「おまえにも『お帰り』だな。」
やわらかな眼差しが、ふわりと微笑む。

「ええ、そうですね…。良い子じゃなくてすみません。でもおかげで間に合った…」
だから待ってたことにして下さい。と囁いて、直江は悪戯っぽく微笑むと、ご褒美にキスの続きをねだった。

いつもなら、調子に乗るなと言いそうなのに、高耶は直江の為すがまま、目を閉じて小鳥のようにじっとしている。
罪の意識につけ込んで、甘い唇をゆっくり味わう。悪い男だと自覚しながら、直江は熱情を抑えようとしなかった。

今朝のキスから、まだ十数時間しか経っていないのに、なんて遠い出来事になった気がするのだろう。
あの時も本当は行かせたくなかった。
今ではもう、このまま腕の中に閉じ込めて、どこにも行かせたくない。

高耶を抱いて寝室に入ると、直江は溺れるように行為に没頭していった。

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

 

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