「ん…ッ…なお…」
息が荒くなるほどに、小さく漏れる声が甘さを増してゆく。
その声に煽られるように、直江は高耶の耳から首筋へ唇を這わせた。
「…ハァッ…んァ…だ…やめ…」
優しいキスと甘咬みで、弱いところを狙って攻める直江に、高耶の甘い喘ぎ声が上がる。
いつしか二人は、自分たちがどこにいるのかを、すっかり忘れてしまっていた。
「グァルルゥ〜」
銀青が、一声叫んで羽ばたいた。
ハッと身じろぎして、高耶は半ば脱がされかけていた服を慌てて直すと、
「ごめん!銀青!悪かった。おまえのこと、放っておいてごめんな。」
謝りながら、銀青の首に頬を押し当て、
「銀青、ありがとう。」
と優しく撫でた。
「高耶さん…」
俺には、そんな素直な言葉は無いんですね。と愚痴のひとつも言いたくなるほどの違いだ。
本当にこの人は、動物と子供に甘い。
そういうところも可愛いのだが、この獰猛な『はぐれ飛竜』まで範疇だったとは…
名前まで呼んで、しかも撫でられた飛竜は、嬉しそうにグルグルと喉を鳴らしている。
複雑な気分で見ていた直江は、ふと気付いて高耶に声を掛けた。
「高耶さん、この辺りなら飛竜が降りられる広い場所がありますよ。
竜も疲れているでしょうし…」
「うん。そうだな。銀青、降ろしてくれるか?」
高耶が言うと、銀青はジロリと直江に目をやって、渋々といった表情で頷いた。
もうオパールは、千秋を乗せて飛び去っている。
「クァ?」
地上に着くと、銀青は高耶に顔を寄せて、甘えるように首を傾げた。
羽根を畳んだまま、銀青は高耶をじっと見つめて、その視線を促すように空を見上げた。
言葉は交わせなくても、銀青が何を言おうとしているのかは、すぐにわかった。
高耶だって同じ気持ちだったのだ。
銀青と空を駆けたい。
追われて飛ぶのではなく、心のまま自由に空を駆けてみたい。
「銀青…でも俺は…」
もしまた魔王の庭みたいな場所に入ってしまったら、今度は抜けられないかもしれない。
俺と一緒にいたら、銀青まで…
「クワァ!」 臆病になる心を、叱咤するように銀青が鳴いた。
飛びたい。おまえと!
高耶は銀青を見つめて微笑んだ。
銀青が大きく頷く。
飛び立った銀青に手を振る高耶の傍らで、直江もまた空を見上げていた。
きっと行くのだ。この人は…
直江は言葉に出来ない思いを胸に、羨望に似た眼差しで、飛竜の姿を見送った。
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