『魔法使いのピクニック‐24』

 

オパールが銀青に追いついたのは、魔王の館から遠く離れた雲の上だった。
「高耶さん!」
直江の声に、高耶は弾かれたようにパッと振り向いた。
「ほらな。やっぱ大丈夫だったろ?」
千秋が笑って直江に手を振る。
けれど高耶は、ギュッと銀青の鎖を握ると、直江から目を逸らして俯いた。

迷惑をかけてしまった。
千秋にも、銀青にも、オパールにも…
そして直江にも・・・
みんなを危ない目にあわせて、なのに先に逃げた。
俺がいたから、千秋と銀青まで、先に逃げるしかなかったんだ。

待つことしか出来ないのが、こんなにも苦しいなんて…
胸が痛くて、早く会いたくて
まだ夜になったばかりのはずなのに、もう何十時間も待った気がする。

良かった…
無事で良かった…
嬉しくて堪らない。
胸がいっぱいで息が詰まる。
だけど…だから…

俯いたままの高耶の背中から、千秋がそっと離れた。
「ちび虎。またな。」
ポンと肩を叩いた手の温もりが、泣きたいほど胸に沁みた。

ありがとう。
ごめん。

その一言が、どうして俺は言えないんだろう。
「ちあ・・・」
呼びかけようと顔を上げて、高耶は目を瞠って息を呑んだ。

直江が泣きそうな顔で、銀青の背に立っていた。
「ば・・・馬鹿!落ちたらどうす…」
最後まで言わないうちに、高耶は直江の腕に包まれていた。

「無事で良かった…」
高耶の頭を胸に押し当て、肩を、背中を、ぎゅうっと抱いて、直江は深い溜め息とともに呟いた。

あれほど心臓が凍る思いをした事は無かった。
半裸の魔王が高耶を見る目。
あれは単なる興味程度のものではない。
本気で手に入れようとしている目だった。
もしもあのまま捕まっていたら、今頃どうなっていたことか…

「ひどい人だ。あなたは…」

なじる言葉を、睦言のように甘く囁いて、直江は高耶の頬に触れると、そのまま指で輪郭を辿った。
そっと顎を持ち上げ、高耶を見つめる。

「直江…」
高耶の顔が、苦しげに歪んだ。

こぼれそうになった涙を、堪えきれずに目を瞑った。
思いが溢れて言葉にならない。
高耶は直江の首に手を廻すと、貪るように唇を重ねた。

危ない目に遭わせたくなかった。
俺の為に命をかけると言ったおまえに、大丈夫だから安心しろって言える人間になりたかった。
なのに俺は…

死ぬかもしれないと思った時も、あの魔王に捕まった時も、俺の心はおまえを呼んでた。
来ないでくれと願いながら、本当は会いたかった。
会いたくて、堪らなかったんだ…

柔らかな唇が、首に廻された手が、何よりも雄弁に、高耶の思いを伝えてくる。
直江は狂おしく高耶を抱きしめ、熱く深く舌を絡めて、息が上がってしまうまで求め続けた。

あなたを求めているのは俺だ。
だから、あなたは負い目なんて感じなくていい。
もっと俺を求めて…俺を欲しがって…俺を呼んで…

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