『魔法使いのピクニック‐19』

 

もちろんオパールにとっても、この状況は歓迎できるものではなかった。
あの魔王と戦うなど、今も愚の骨頂だと思っている。
それでも、こうなった時、オパールは迷わずひとつの道を選んでいた。

逃げる?
そうとも、逃げるに決まっている。
おまえ達を乗せたら、全力で!

こんなに暴れてしまっては、すぐに館の連中が集まってくるに違いないし、
魔法使いの数が増えると、魔法を避けるのも難しくなるし、相手をするのも煩わしい。
だから今のうちに、退路を築いて備えるのだ。
チアキとタカヤの上に天井が落ちたりしないよう、慎重かつ迅速に壁を壊さねば…

そう思って、グリグリと壁に穴を開けようとしたオパールだったが、どうやっても手応えがないのだ。
押しても叩いても、ぐにゃりと歪んで元に戻る。
せっかく秘密の庭から出たのに、今度は部屋から出られない。
グルルと唸って、オパールはギロリと壁を睨んだ。

 

部屋の真ん中では、千秋とノブナガの攻防が続いていた。
銀青は、ランマルを尻尾で弾き飛ばした後、魔法を使えないように、尻尾で巻いてグルグル振り回している。
おかげでノブナガとの綱引きに専念できるのは良いが、体を引き留めてくれる力の減少はイタい。
オパールだけでは支えきれず、ジリジリと距離が近づいてゆく。

「さあ、来い。魂はここだ。魂と肉、ひとつになりて我のもとに参じるがよい。」
目を閉じたままの高耶の体が、ノブナガに応えるようにビクンと動いた。

「行くな!ちび虎!」
思わず両手で抱きしめた千秋の指から、光の綱が消える。
勝ち誇った笑みを浮かべて、ノブナガは高耶の魂を前に掲げた。
今にも消えそうに弱々しく瞬いていた魂が、再び白熱の光を放ち始める。

「ふふふ。愛(う)い奴よ。ここまできても、まだ抗(あらが)うか…」

手が焼けるほどの熱を発して、魔王に逆らう魂など、どこにあろうか?
この魂、器ごと必ず我が手にしてみせる。

ノブナガの思いを映すように、肉体は魂を求めて更に引き寄せられていく。
もう千秋とオパールの力では留めることは出来なかった。

魂と肉体が触れると同時に、高耶の意志に関係なく融合が始まる。
目を輝かせるノブナガに、ほんの一瞬、隙が生まれた。

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

 

拍手ログに戻る

小説のコーナーに戻る

TOPに戻る