『魔法使いのピクニック‐18』

 

魂を締め付けていた力が、フッと緩んだ。

「ちび虎!」
千秋の声が聞こえる。
「来るな…来ちゃ…ダメだ」
こんなことになったのは、自分がバカだったんだとわかってる。
だけど、だから、もう誰も危ない目に遭わせたくないんだ。
そう言いたいのに、もう叫ぶことも出来なかった。

お願いだから…
せめておまえ達は無事に逃げてくれ…
逃げろ! 千秋!

声にならない声が、千秋の心に届いた。

「バカ虎! んなこと思う暇があったら、トットと来い!!」

思い切り叫んで、千秋は高耶の魂に手を伸ばした。
高耶の思いが胸に痛い。
もう言うな。そんなこと…!
俺たちは一緒に帰るんだ。そうでなければ、俺は…

魂を解放させるには、魔王の力に逆らって、肉体に呼び込むしかない。
千秋の指先から迸った光の束が、魂を包み込もうとした時、鋭い衝撃が千秋の腕に走った。

ビシッ!!!

嫌な音を立てて、光が裂けた。

ジンジン痺れる腕を堪え、裂けた光を即座に編んで、魔王の力を阻んだ。
ぶつかり合った魔力が、スパークして霧散する。
「長秀。邪魔をするな!」
尚も光の綱を伸ばそうとした千秋に、ノブナガの射るような声が跳んだ。

「邪魔?いきなり呼び寄せたのは、アンタだろ。そいつは俺の連れだ。返して貰うぜ!」
一歩も引かずに魔王を見つめて、千秋は高耶の体を抱く手に力を込めた。
飛竜の尻尾で巻かれていても、気を抜けば体ごと魔王の下に引き寄せられる。

「長秀?貴様…!殿が貴様など呼ぶものか!
 寝所を壊して何をヌケヌケと!
 馬鹿が。ここから帰れると思っているのか!」

ランマルの手から、青い火花が散る。
銀青が、ギャオゥと吼えて尻尾を振るった。

銀青は怒っていた。

「はぐれ」には、はぐれとして生き抜く為の、知恵がある。
その知恵が、(闇市を統べる魔王と戦うなど止めておけ)と言う。

わかっている。そんなこと…

だが、だったら、ここから逃げろというのか?
あの庭に落ちたのも、元はといえば、オレのせい。
オレが逃げたからだ。
この人間から…
なのに…

失いたくないと、初めて思った人間を、どうして取り上げられなきゃならないんだ!

邪魔をするなだと?
それはオレのセリフだ!

逃げた自分に腹が立つ。
逃げろと言う自分の理性に腹が立つ。

返せ!
オレは、この人間と空を飛ぶんだ!
本物の空を!

喚きながら尻尾を振り回す銀青の後ろで、オパールは慎重に壁を壊しに掛かっていた。

 

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

 

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