来るな!
誰も来るな!
ほんの一瞬で途絶えた声。
それは紛れもなく、高耶の叫びだった。
どうして!
何があったのかと思うより、体が先に動いていた。
どうして行かずにいられるだろう。
「来るな」と願わねばならないほどの状況で、どうして俺を呼んでくれない!
泣きたい思いで、高耶の気配を感じた場所を探った。
ギャオオオオ
どこかで何かが暴れている。
そういえば、高耶の声が聞こえたのは、あの地震と同じ時だった。
もしかしたら…
直江は手にした絵を空中に放り投げると、素早く呪文を唱えた。
宙に浮いた杖が、落ちてゆく絵を包むように、サラサラと魔方陣を描いてゆく。
絵から光が迸ると同時に、呼び寄せた箒に跨り、光の向かう方向へ飛んだ。
その先には、闇市の芸術家が造ったという美しい壁が、行く手を阻んで立ちはだかっている。
直江は一瞬の迷いもなく、壁にぶつかっていった。
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