『魔法使いのピクニック‐12』

 

見えない力に縛られ、魂が声にならない悲鳴を上げる。
掴むことも触ることも出来ない精神体ならば、簡単に捕まらないだろうと、思い込んでいた自分の甘さを悔やんでも、どうにもならない。
魔法に絡め捕られた魂は、ギリギリと締め付けられて、人の姿から明滅する光に変わっている。
暗示の呪いは完全な失敗に終わり、事態は最悪の状態を迎えていた。

「見よ、ランマル。面白いものを捕えたぞ。」
ゾクッとするような甘い声で、傍らの美しい青年に呼びかけた男は、苦悶する高耶の魂を抱いて、愉しげにククッと喉の奥で笑った。

ランマルと呼ばれた美青年は、瞬いている光の玉を見て、ハッと目をみはった。
「殿!お戯れが過ぎます。寝所に下賤な人間の魂など持ち込んで…お手が汚れます!」
ムッとノブナガを睨んで、魂を取り上げようと手を伸ばす。

「フフ、妬くなランマル。これはな、勝手に飛び込んで来たのだ。我が寝所に、な…」
ランマルの顔色が変わった。

鋭い目で高耶の魂を見つめると、
「ならば尚更、私にお渡し下さい。ここに侵入するなど只の人間とは思えません! 何者の仕業か探らねば…」
言うが早いか伸ばした指を、サッと光の中に差し込んだ。

ランマルは魂から情報を掴み出すつもりだった。
剥き出しの魂は、弱い。
寒くて怖くて震えているものだ。
だから優しい温もりに包んでやれば、魔法で作った幻想の世界を、簡単に現実だと信じ込む。

魔法は、人の心を変えることも、操ることも出来ない。
だが使い方ひとつで、目的を果たすことは出来る。
ランマルは、それをよく知っていた。

 
高耶を締め付けていた真っ暗な闇が、ふっと緩んだ。
春の日差しのような、やわらかで暖かい何かが、近づいてくる。
そっと高耶をくるもうとする優しい手…

…直江…?

そう思った瞬間、高耶の魂が火のように熱くなった。

「触るなッ! 俺に…触るなあぁーっ!」

猛烈な拒絶反応に、高耶の魂がノブナガの手の上で白熱の炎になった。
炎を纏った人の姿が、陽炎のように揺らめく。

違う!
おまえは直江じゃない!

激しい怒りが、弱っていた魂の力になって燃え盛る。

「この…っ!人間ふぜいが!」

突然の抵抗に、火傷を負った指で、高耶の魂を弾き飛ばそうとするランマルを、ノブナガの魔法が留めた。

 

背景の壁紙は、こちらからお借りしました。→

 

拍手ログに戻る

小説のコーナーに戻る

TOPに戻る