「な…何を…」
直江は高耶より10センチほど背が高い。
その腕を脇の下に回され、肩の高さまで抱きあげられて、もがく間もなく視界が反転した。
「離せ!てめえッ!このバカ野郎」
暴れる足を抑え込み、直江は高耶を担いでベッドに運んでいった。
両肩をベッドに縫いとめ、間近に直江の顔が迫ってくる。
じっと高耶を見つめる瞳には、怖いような何かが宿っていた。
見つめ合ったまま、目が離せない。
なぜか心の奥が震えた。
体が熱くなる。
ドクン、ドクン
耳を打つ鼓動の向こうに、直江の声が聞こえた。
「高耶さん。
私はあなたに、事実を事実として認めて欲しいんじゃない。
あなたが認めなくても、事実は変わらない…いいえ、あなたが認めたくない事実なら、いっそ嘘にしてくれていい。
私が信じて欲しかったのは…」
言葉を切って、直江は高耶の唇を塞ぐように口づけた。
輪郭をなぞり歯列を割って侵入しようとする舌に、ゾワリと妙な感覚が首筋を這う。
覆いかぶさった体の下で、敏感に反応し始めているものにうろたえて、高耶はギュッと目を瞑った。
肩を押さえつけていたはずの直江の手は、いつのまにかシャツをたくしあげ、
肌すれすれの微妙な距離を滑りながら、時折ピンポイントで弱いところに触れてくる。
「んん…ふ…」
堪えきれない喘ぎが漏れた。
そんな・・・
認めない。こんなの知らない。
否定する感情と裏腹に、体は勝手に更なる刺激を期待して、たかぶってゆく。
負けるものかと歯を食いしばる高耶の目尻を、そっと優しい指が撫でた。
「すみません。泣かせてしまいましたね。」
「泣いてねえッ!」
怒鳴りつけたものの、濡れた指で微笑まれては格好がつかない。
おまけに、
「でも、感じてくれていたでしょう?」
と言われ、高耶は真っ赤な顔で直江を睨みつけた。
「感じて下さい。もっと…」
直江の声が、真剣になった。
「あなたと私の真実を、あなた自身で確かめるんです。
私の真実は、ゆるぎなく私の中にある。 ならば、あなたの真実は、あなたの中にあるはずだ。
それを感じて下さい。
他の誰でもない、あなた自身の感覚こそが、本当のことを教えてくれる。
そう思いませんか?」
熱のこもった瞳だった。
そこには情欲だけではない何かが、ある気がした。
だから、つい頷いてしまったのかもしれない。
「オレが止めろって言ったら、ちゃんと止めるんだろうな。」
「ええ。あなたの意志に従いますよ。」
そう約束させて、高耶は直江の腕の中で、覚悟を決めて目を瞑ったのだが…
数十分後、高耶は激しく後悔していた。
「や…あッ…止め…ンン…この…止めろって…言ってん…」
直江の指が、くるくると小さな弧を描いて、つんと尖った赤い粒をいたぶる。
首筋から鎖骨へと降りてきた唇は、高耶の懇願など知らぬそぶりで、もう一方の粒へと甘い吐息を吹きかける。
ふるっと小さく震えた肩を、なだめるように抱きしめて、直江は滑らかな肌に舌を這わせた。
止めろと言っても止めない男に、
「サ…イアクだ…おまえ」
切れ切れに毒づく。
直江が、ふっと目をあげて微かに微笑んだ。
与えられるのは、紛れもない快感だ。
けれどそれが、前から知っていたものなのか、どうかなのか、確かめる術などない。
止めろと言いながら、続けて欲しいと願ってしまう。
それは直江だからなのか?
考えろ、思い出せ、感じるの意味が違うだろ!
そう自分を叱咤しても、直江の指を、唇を、温もりを、いつしか全身で追っている。
自分自身の感覚で確かめる…なんて、そんな余裕は最初から無かったのだ。
本気になった直江が、どんなものかを知らなかったとはいえ、
手始めだけで、あんなに感じてしまったものを、その先に進んでも良いなどと、
どうして思ってしまったのだろう。
止まらない。
息が上がって、苦しくて、
「あ…ああ、もう…ッ…なおえ!直…っ!」
真っ白になった瞬間、口走った名前は、忘れることなどなかったはずの、唯一人の男の名。
目を開けると、直江が泣きそうな顔でオレを見つめていた。
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