ずっと一緒にいた…
これからも一緒にいるために、欲しかった賞金だったんだ。
なのに…
「答えろ!直江!」
おまえはこれでいいのか?
胸に溜め込んだものを、鬼の力なんかで出されていいのかよ!
こんなの嫌だ。
許さない…
おまえの心を、俺じゃないヤツに触らせるな!
「やめろ!答えられやしない。
そいつは今、鬼への変化で何も考えられなくなってんだ。」
悲痛な高耶の声に、千秋が思わず止めに入りました。
けれどそのとき動いた一迅の風が、あっという間に高耶を攫い、
誰も手の届かないところへ連れ去ったのです。
それは頭に一本角を生やした直江が、初めて使った鬼の力でした。
鬼になったばかりの直江が、まさかこれほどの力を使えるとは、誰も思っていませんでした。
直江自身でさえ、知っていて使ったわけではありません。
千秋の喉に牙を当てた瞬間、目の前が真っ白になり、何も聞こえなくなって、
このまま死ぬのだと思ったとき、胸に浮かんだのは高耶の顔でした。
身体が内側から焼かれるような、猛烈な熱さに呻きながら、
直江の心は高耶を求めて叫んでいました。
叶うなら…!
白一色の世界に浮かぶ幻のような高耶の姿を、直江は何もかも忘れて見つめました。
傷つけたくなくて、失うのが怖くて、どれだけ我慢したでしょう。
けれどもう、二度と触れることさえ出来なくなる…
心に掛けた枷は、もうありませんでした。
触れたい!抱きたい!
この腕で、この身体で、あなたの全てを感じたい!
願いが通じたのか、幻のようだった姿が鮮明になり、高耶の声が聞こえました。
「答えろ!直江!」
言葉など浮かびません。
直江は高耶を抱きしめ、貪るように口づけました。
巻き起こした風の強さも、行く先も、
全て無意識にしたことで直江は何も考えていなかったのです。
直江は自分が鬼になったことにも、全く気付いていませんでした。
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