『魔法使いの年始-9』

千秋の作った食事は、予想外に素晴らしかった。
「うーん。美味かった! ご馳走さま」
礼儀正しく手を合わす仕草に目を細めて、千秋は次の言葉を待った。

「…おい。なんか忘れてねえ?」
とうとう焦れて声を掛けると、高耶は目で笑った。
「魔法で出したんじゃ、サマは付けられない。悪いな」

「ったく可愛くねぇ。魔法だってなぁ、オリジナルで美味い料理を出すのは難しいんだぞ。」
「知ってる。直江の食ったし…」
だから俺が作るんだ。と、言わなくてもわかる空気に、二人は顔を見合わせて笑った。

「やっぱあんたは直江のこと、よく知ってるんだな」
どこか寂しそうに、それでいて安心した顔で、高耶は千秋を見つめて呟いた。

「長い付き合いだからな。けど、今のあいつを誰より知ってるのは、おまえだろ。」
千秋の言葉に、高耶はちょっと目を瞠って、ついと視線を外した。
考え込む高耶を見ながら、千秋は昔の直江を思い出していた。

高耶を見る時の、あの幸せそうな笑顔も、
こんなに誰かを守ろうとするのも、
高耶と出会う前の直江からは、考えられないことだった。

いつも冷静で、いい子ちゃんの優等生。
なのにあいつは、そんな自分を認めてなかった。
誰からも認められる実力と容姿を兼ね備えながら、どこか醒めた目で微笑んでいた直江…
あいつの心の中を、誰が本当に知っていただろう。

千秋にしても、直江に興味を持ったのは、彼が高耶を探し始めてからだ。

たった一度会っただけの子供に、また会いたいと言って何年も諦めなかった男。

その子供が目の前にいる高耶なのだから、
直江の諦めの悪さを誉めてやるべきだろうと、千秋は思った。

あいつは誰に何を言われても、本当に大事なものを失わなかった。
だからきっと、これからも…

デザートの柚子シャーベットを食べながら、そんなことを考えていた千秋は、
唐突な高耶の言葉に目を上げた。

「直江は俺の為に、あの家を隠してんのか?」

疑問形で聞いていても、高耶の口調は確信に近い。
それをあえて言葉にすることで、
高耶は何らかの覚悟を決めたように見えた。

 

拍手ログに戻る

  小説のコーナーに戻る

TOPに戻る