『魔法使いの年始-7』

高耶がいない部屋は、ひっそりとして寒かった。
こんなことなら、ちゃんと話しておけば良かったと後悔しても遅い。
千秋はどこまで知っているのだろう?
そして色部は…どこまで知って、この年賀状をくれたのか…

色部の誠実さを疑いはしない。
だが魔法界の重鎮という立場を思えば、迂闊に頼るわけにはいかなかった。

 
高耶は人間だ。この世界では、それだけでも危ない目に合う可能性が高い。
まして彼は、魔法界と対立する存在である魔導士、それも大魔導士ケンシンの加護を受けている。
高耶自身は何も知らないが、彼は魔法界にとって、またとない人質であり、身中の脅威にもなる存在なのだ。

 

直江がそれを知ったのは、去年の夏。高耶に誕生日の贈り物を探していた時だった。

何が欲しいか尋ねると、彼はずっと気になっていた椅子があるのだと言った。
子供の頃、大好きだった隣のお爺さんが、彼の為に作ってくれた椅子。
でもその椅子をもらう前に、高耶は引っ越すことになり、
お爺さんは「大きくなったら取りにおいで」と、椅子を秘密の場所に隠した。
その椅子を探すのに、協力してもらったのが千秋だった。

探しもので、千秋の右に出るものは無い。
そうしてようやく見つけた場所で、高耶は不思議な言葉を唱えた。

離れていた千秋は、気付かなかっただろうが、
その瞬間、高耶を包んだ光は、紛れもなく魔導士の加護だった。
霧が晴れるように姿を現した椅子の裏には、高耶の幸福を祈る魔導士の綬印が刻まれていた。
史上最強と恐れられた、大魔導士ケンシンの印が…

 

その時から、直江は慎重に高耶を守ってきた。
だが…それを高耶に言えなかったのは、怖かったからだ。
守られなきゃいけない暮らしなど、まっぴらだ!と、高耶なら言いそうな気がして…

 

顔を上げて、直江はふと棚に目を留めた。
白い折鶴のひとつが、ほのかに光っている。
明滅する光は、高耶の鼓動を思わせた。

『大丈夫だから…』

心に灯った光に、直江は立ち上がって箒を手にした。
左手に包み込んだ折鶴の、柔らかな瞬きを見つめて小さく微笑む。
大丈夫。
この温もりを手放したりしない。

直江は箒に乗って、一直線に飛び立った。

 

すっかり趣味に走ってます(笑) 冒険とかファンタジーとか謎解きとか…(^^)
もう春なのに…まだ続いててすみません〜(><)

 

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