『記憶』-3

 

「これより結界調伏法を執り行う。
 被法霊は石碑一帯に集いし怨霊、及びそれに従いし雑霊。
 悪鬼退散! 我に御力与え給え!」

凛と響く声は、迷いも憂いも感じさせない。
高耶の手に生まれた毘沙門刀が、ブンと唸りを上げて振り下ろされる。
同時に、眩しすぎるほどの白い光が、剣先から迸った。

どす黒い念の塊が、光の中心に引き寄せられるようにして、端の方から吸い込まれてゆく。
アメーバにしか見えなかった濃い念の澱みが、強い光の中で本来の姿を現すと、
ひしめきあいながら吸い込まれてゆく霊たちに混じって、泣きじゃくる子供の姿が見えた。
防空頭巾を被った小さな子供の霊だ。

だからといって、その子供だけを残すことなど出来はしない。
それを望むわけでもなかった。
でも…

叫びも、想いも、なにもかもが、光の中に溶けてゆく。
高耶の心を置き去りにして、白い浄化の光は、ただ美しかった。

やがて全ての霊が消え去り、石碑の周りに清浄な空気が満ちると、高耶は厳しい表情のまま踵を返した。
「何も出ないとは思うが、細部まで調査を怠るな。」
そう言い置いて、そのまま後ろも見ずに歩き出す。
頷いた綾子は、肩を竦めて首を振った千秋を引き摺って、再び石碑と周囲の霊査を開始した。

             

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