『誕生日の贈り物-8』

 椅子に心を…?
 もしそうなら爺ちゃんは、椅子を置いて行ったんじゃなくて、
 俺を待っていてくれたのか?
 いつか来る俺を待っていたいと、思ってくれていたのか…

俺は直江に、何も言ってなかったはずだ。
ただ爺ちゃんの椅子が欲しいと言っただけで…
何よりも俺自身が、あれは夢だったんだと諦めていた。

だけど俺はきっと、この言葉が欲しかったんだ。
爺ちゃんが俺を大事に思ってくれてたことを、幻じゃなかったんだと、言ってもらいたかったんだ…

あの年、親父が仕事先で子連れは困ると言われ、
行き場のなくなった俺と美弥は、ふたりだけで壊れかけの空き家に寝泊まりしていた。
もし爺ちゃんが見つけてくれなかったら、冬まで保たなかったろう。

爺ちゃんは、俺にいろんなことを教えてくれた。
山で生きる知恵や、昔の遊び。
子供でも出来る仕事や、不思議に良く効くおまじない。

だけど…

思い出せないのは、爺ちゃんが俺に逢いたくないから?
そんなこと思いたくないのに、不安が積もって大きくなって…
だから諦めてた。
ここを探すことも、椅子のことも…

ずっと居たいと思える場所なんて、見つかるはずないと思ってた。
おまえと暮らすまでは…

今ならわかる。
だから来れなかったんだと…

そして、だから今日は迷わずに来れた。
爺ちゃんは、この時が来るのを、願っててくれたんだ。

「そんじゃ、椅子を探さねぇとな!」
高耶は気合いを入れて立ち上がると、笑って直江に手を延べた。

 

張り切って探し始めた二人だったが、そう大きくない家の中から納屋まで
見て廻っても、椅子はさっぱり見つからなかった。

「…ったく爺ちゃん、念入りに隠し過ぎだぜ…」
そうボヤいても、高耶の口調に陰は無い。
代わりに直江が肩を落としていた。

「こうなったら、あの男を呼ぶしかなさそうですね。」
「あの男?」
「ええ。探し物のスペシャリストみたいなものですが…」
語尾が沈んだ様子から、
「苦手な奴なのか?」
と心配する高耶に、直江は苦笑しながら首を振った。
あなたを気に入りそうで嫌なんです。とは言えなかった。

次は真打登場?(笑)ホント長くてすみません〜(><)

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