『誕生日の贈り物-6』

目的の場所に近づくにつれて、高耶の口数は少なくなっていった。
窓に半ば頭を持たせかけたまま、流れる景色を眺めている。
その横顔を見ながら、直江は手の中の切符をそっと握っていた。

高耶には、まだ行き先を告げていない。
この旅で椅子を探そうとしている事も、直江は高耶に言っていなかった。

高耶の為に椅子を作ってくれた人…
その人は、どんな人なのだろう?

もし高耶が思い出すとしたら、それは椅子の場所だけで終わるはずがない。
高耶と老人の間に築かれていた絆を思うと、胸の奥が鈍く痛んだ。
窓の外に向けられている高耶の瞳は、現実の景色を透して、どこか遠い何かを見つめている気がした。

 

タタンタタン
タタンタタン

リズムを刻んでガタゴト揺れる車両
ゴォーッと風を切る音
踏切のカンカン鳴る警報機
パーン プァーン
何の音だか、間抜けに響く独特の音も聞こえる。

揺りかごのような穏やかな時間の流れに、閉ざされた過去の記憶が解放されていく。
変わってしまった景色の中に、変わらない懐かしい山河が見えた時、
高耶の心臓がドクドクと騒ぎ出した。

知っている…
ここは…!

「直江! 次で降りるぞ!」

驚く直江の手を掴んで、高耶は勢いよく立ち上がった。

 

二人が降りたのは、直江が用意していた切符のひとつ手前の駅だった。
こじんまりした駅の改札を出て、小さなタクシー会社の前を通り過ぎると、高耶は迷わず左に曲がった。
踏切を渡り、澄んだ小川に架かる古い木の橋を渡って、
高耶は直江の手を握ったまま、山際の田舎道を走るように歩いていく。

「思い出したんですね?」
「ああ。この先に、爺ちゃんの家があったんだ。」

軽トラックが1台、走ってくるのを、ちょっと広くなった場所で、山に貼り付くようにして、やり過ごす。
きっと何度もこの道を歩いたのだろう。
はやる気持ちを抑えきれずに先を急ぐ高耶の手は、しっかりと直江の手を掴んで離さなかった。

少し汗ばんだ手の温もりが、直江の心にあった小さな痛みを、優しく溶かしてくれていた。

 

まだ続きます〜(><)

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