こんなつもりでは無かった。
と言っても、信じてもらえそうにないが…
ベッドでグッタリしている高耶の前髪を、そっと指で梳き上げて、
直江は汗ばんだ額に優しいキスを落とした。
「会えて良かった…」
小さく洩らした独り言に、高耶の瞳が開いて直江を見つめた。
体の奥から湧き上がりそうになる熱を、どうにか抑え込みながら、
「あなたに会いたかったんです。ずっと探していた…
でも会えたらもっと会いたくなって、抱きしめたくなる。
こんな抑えの効かない私では無かったはずなのに…」
指が高耶の輪郭を辿って、顎から首筋へ伝い下りてゆく。
途中で高耶の手に包み込まれて止まった指先を、
直江は少し尖らせた唇に、高耶の手ごと引き寄せて押し当てた。
「それは会いたくても会えない奴の言うセリフだ。」
俺がどこにいても、すぐに見つけるおまえが、何を言ってるんだ?
と笑う高耶は、直江が何年も前から高耶を探し続けていた事を知らない。
小さな頃の記憶など、無くて当たり前だ。
それでも直江は、高耶と出会ったことを、感謝せずにいられなかった。
「あなたが欲しいと言うなら、どんなものでもあげたい…」
囁く直江に、高耶は笑いかけて、ふっと口を閉じた。
しばらく黙って考えていた高耶は、やがて顔を上げると、
直江の瞳をじっと見つめて問いかけた。
「直江…俺の椅子、おまえの家に置かせてくれるか?」
椅子? もちろんそれはOKだが…
「椅子だけ…ですか」
そう言ったのは、高耶自身を迎えたいという心の現れだったのだが、
あいにく高耶には通じなかったらしい。
「特別な椅子なんだ。
子供の頃、近所の爺ちゃんが俺の為に作ってくれたんだけど、
おまえの家なら…
探してくれるか? 直江。
俺はアレが欲しい。
おまえの家で、あの椅子に座りたいんだ。」
高耶の瞳が、まっすぐ直江を見つめている。
理由はわからないが、それが高耶の願いなら、どんなことをしてでも叶えてみせる。
直江は微笑んで、しっかりと頷いた。
まだ続きます。誕生日のプレゼントが椅子?
高耶さん、自分の誕生日を忘れてるような気が…(^^;
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