『誕生日の贈り物-13』

ずっと一緒にいたい。
離したくない。
離さない。

耳元で繰り返す直江の声が、なぜか心を締め付ける。
胸が熱くなって、涙が滲んだ。

「いいのか? 後悔しても知らねえぞ」
冗談みたいに笑って言うと、直江は少し腕を緩めて、真剣な顔で俺を見つめた。
溜まった涙を見られたくないのに、瞳から目が離せない。

「後悔なんてしない。」
直江は静かに言い切ると、高耶の顎を指で上げて、ゆっくりと唇を重ねた。
舌を絡ませ、愛撫するように、優しく吸って、感触を味わって…

 

「コホン」
遠慮がちな咳払いに、高耶は慌てて体を引いた。
離そうとしない直江の背中を、ガツンと小突いて引き剥がす。
千秋は肩を竦めてクスッと笑うと、
「お取り込み中で悪いが、椅子も見つかったみたいだし、俺は帰らせてもらうぜ。
 せっかくだから、椅子を拝ませてもらいたいとこだけど、あんまり邪魔するのもナンだしな。
 ま、仲良くやってくれ。じゃあな、お二人さん。」

そう言うと、千秋は何も見なかったふりをして、笑って手を振った。

迸った光の波動で、壊れてしまった増幅器。
だがそんなものを通さなくても、千秋は全身で波動を感じていた。
あれは魔導士が作った椅子だ。
それも超がつくほどの力の持ち主が、高耶に加護を与える為に作ったもの。
けれど千秋は、それを誰にも言うつもりは無かった。

「そういや、あいつ今日が誕生日だったな。おめでとうって、言いそびれちまった。」

久しぶりの箒で風に乗って飛びながら、千秋は暮れてゆく空に広がる、薔薇色の雲を見上げた。
あの二人の笑顔に、また会えそうな気がしていた。

 

千秋を見送って、直江はホゥッと小さく息を吐いた。
魔導士の光に気付いていたとしても、何も言わずに帰ったことが有難かった。

「礼…言いそびれちまった。今度会ったら、ちゃんと言わなきゃな。」
椅子を見つけられたのは、あいつとおまえのおかげだと言って、高耶は笑顔で直江を見つめた。
「おまえがいなかったら、俺はきっと諦めたままだった。
 この椅子も、爺ちゃんとのことも…」
高耶の感謝を込めた眼差しに、直江は複雑な思いで微笑んだ。

役に立てたのは嬉しい。
高耶の笑顔を見ると、誕生日の贈り物にしようと頑張って良かった…とも思う。
それでもやはり、見つけなければ良かったと思う気持ちが、直江の心に強く残っていた。

何も知らない高耶は、大事そうに椅子を撫でながら、少し躊躇うように言葉を切ると、山の上で光る茜色の雲を見上げた。

この家で暮らした日々を思い出しているのだろうか?
恐るべき魔導士であっても、高耶を大事にしてくれた人であることに変わりは無い。
ケンシンは、この椅子に守護の授印を施し、ずっと高耶を待っていたのだ。
それを思うと、直江は堪らない気持ちになった。

そんな思いが伝わったのか、高耶は直江の隣に来ると、ほんの少し肩を寄せて俯いた。
「どうしたんです? 眠くなりましたか?」
微笑んだ直江に首を振って、
「いや、そうじゃないけど…」
歯切れの悪い口調が、なんだか甘えているようで、直江はちょっと目をみはると
悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「じゃあ、さっきの続きがいい?」
「続きって何の?」キョトンとした顔に唇を寄せて、
「もちろんコレの…ですよ」
囁きながら耳を軽く甘噛みする。

「…!」
声を堪えて、思わず胸にしがみついた高耶の腰を、右手でしっかり抱き寄せて、
左手に出した杖をシュルンと一振り。

椅子を箒の尻尾にぶら下げて、あっという間に高耶を抱き上げ、空高く舞い上がってしまった。

 

 

やはり直江は直江だった(笑)もう少しだけお付き合い下さい(^^)

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