茜色からラベンダーに変わってゆく空は、日が落ちてもまだ明るい。
直江は魔法のマントを広げずに、高耶を抱いて、ケンシンの家の真上をゆっくりと旋回した。
「見られるぞ?」
空を飛ぶ姿を、人に見られるとマズいのでは…と心配する高耶に、
「ええ、見せているんです。」
直江は迷いのない瞳で、にっこり笑って下を見た。
「そうか…そうだな、見てるかもしれない。」
呟いて、高耶は直江の首に手を廻し、懐かしい家を見下ろした。
爺ちゃんが、笑いながら手を振っている気がした。
やがて風に夜の匂いが混じり始めた頃、直江は空の上で箒を静止させると、
綺麗にリボンを掛けた小箱を出して、高耶の手のひらにチョンと乗せた。
「お誕生日おめでとう。高耶さん」
嬉しそうな笑顔が、なんだか眩しい。
「開けていいか?」
と尋ねると、直江はもっと嬉しそうな顔で、
「ええ、もちろん。」
と頷いた。
お日様みたいな黄色のリボンを解き、透き通った海のような青い箱の蓋を開ける。
キラキラ光る何かが、箱の中から飛び出すと同時に、
シュルシュル…
ポン!
可愛い音を立てて、ピンクの小さな花火が上がった。
「おお〜っ! すげぇ!」
びっくり箱なんて粋なことするじゃん! と大喜びの高耶の横で、直江はクスクス笑っている。
「なんだよ? 子供みたいだって言いたいのか?」
つんと唇を尖らせた鼻先に、白く光る冷たい何かが当たった。
「手を出して…人差し指を伸ばすんです。こんな感じに…」
躊躇いがちに伸ばした指に、直江が優しく手を添える。
白い光が、高耶の指に、ひとつ。
もうひとつは、直江の指に止まった。
それは不思議な紙で折られた、白い鶴だった。
「折鶴? 生きてるのか?」
ふうわりと羽を広げた鶴は、生きているようにも見えるが、ペタンコの折り目がついている。
「いいえ。不思議な鳥ですが、生きているわけではないんです。
でもこれは、折った者の願いを叶えてくれると言われているんですよ。」
直江が自分の指から高耶の手のひらに移した鶴は、羽を畳むと普通の折鶴と同じ形になって、
パサッと横たわったまま動かなくなった。
「へえ〜ホントに不思議な鳥だな。」
高耶は鶴の羽を広げたり畳んだりして遊んだあとに、ふと気付いて直江を見つめた。
「これ、もしかしておまえが折ったのか? 俺の誕生日だから?」
「そうですよ。まさか本当に、あの花火がプレゼントだと思ってたんですか?」
目を丸くして笑った直江は、高耶をギュッと抱きしめると、
「あなたが欲しいものと、俺が贈りたいものと、両方を贈ろうと決めていたんです。
でも俺が本当に贈りたいものは、今日だけじゃなくて、いつでもあなたに贈りたい…
受け取ってもらえますか?」
蕩けそうな声で囁いて、やわらかな唇を奪った。
これから伝える全てのものを、受け取って欲しい。
あなたに愛を…
真心を…
贈りたいけれど、それを伝えることは、とても難しいから…
だから心と体の両方で、あなたに伝えたい。
直江は月と星が降るように輝いている夜空に、魔法のマントを大きく広げた。
ここからは、あなたと俺のふたりだけが、知っていればいい。
誰にも見せない。
あなただけに、贈りたいものだから…
やっと高耶さんに直江からの贈り物を渡せたよ〜(^0^)
思いのほか長くかかってすみませんでした。
えへへ。やっぱ…ね、この先は秘密(笑)私も独占欲のかたまりなのです。
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