「おい、おまえ。…この方法って、俺の波動を知らなくても、やれたんじゃねぇの?」
不機嫌な高耶の声に、千秋は勘のいい奴だと内心で舌打ちした。
手を上げろだの、ジャンプしてみろだの、ふざけてんじゃねぇぞ!
と怒る高耶を宥めていた直江も、ムッとした目で睨んでいる。
「まぁ…確かに今のところは、あまり役に立ってないとも言える…
ちょッ!待て直江! 落ち着けって!」
襟を掴んだ直江の手を引き剥がし、千秋は二人に現状を説明した。
「障壁? じゃあ椅子は、その障壁ってので隠されてんのか?」
「って言うか、障壁で遮られた空間の中に、隠されているんだろうな。
普通なら関わった人間の波動が、椅子にも移ってるもんだが、この状態じゃそこまで掴めない。
今はまだ、おまえの波動が役に立つ以前の問題なんだよ。」
溜め息をついた千秋に、直江が怪訝な顔をした。
「見に見えない壁のようなもの?
変だな…もしそれが魔法のマントと似た性質なら、高耶さんには効かないはずだが…」
「ハアァ?」
何だ、それは?
そんな人間がいるのか?
驚く千秋と裏腹に、直江は当たり前の顔で、
「言ってなかったか? 魔法のマントも、高耶さんには普通のマントと変わらない。
その障壁も見えていると思うが…」
どうです?と聞かれて、高耶は困ったように首を振った。
「わかんねえ。俺には昔と同じ家に見えるだけだ。」
目に見えない障壁が、高耶には本当に見えているのか?
もし見えているなら、そこに扉があれば、高耶にだけ開けられることになる。
「そうか! だったらこれだ!」
千秋は指を鳴らして、この家の立体模型を出すと、高耶に見せて言った。
「これが俺の見てる姿だ。違うところがあったら教えてくれ。」
立体模型は、高耶が知っているよりも、随分あっさりした家だった。
小部屋がなくて、壁もない。
立ち入り禁止の爺ちゃんの部屋も、大きな部屋の一角に過ぎないように見える。
「ホントにこんな風に見えてんのか? 直江にも…?」
信じられないという顔の高耶に、直江は軽く頷いて微笑んだ。
「あなたよりちょっと見えるものが少ないだけです。
見えても見えなくても、壁が存在する事に変わりは無い。
だったら見える方が便利ですよね。」
便利って…そんな問題か?
思わずツッコミを入れたくなったが、高耶は少しホッとしたようだ。
気を取り直して、あれこれと違う部分を指摘すると、
「あれ? そういやここって、昔は扉があったような…?」
唇に手を当てて、しばらく考え込んだ高耶は、突然「あっ!」と叫んで走り出した。
直江と千秋が慌てて後を追う。
走る高耶の姿が、フッと掻き消えた。
高耶さんはどこへ? そして椅子は…!? 拍手ログに戻る
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