心のままに、貪るように追い上げて、
吐き出させた甘露の一滴までも、余すことなく嘗め取って、
ようやく直江は、ゆっくりと体を起こした。
高耶の目が、薄く開いて直江を見つめた。
目尻に溜まった涙で、余韻を残した瞳が潤んでいる。
このまま、もう一度キスから始めたい衝動に駆られながら、直江は微笑んで立ち上がった。
「服を脱いで来ます。早く湯に入らないと、風邪をひきますよ。」
そう言って扉を出ていく直江を、高耶は何も言わずに目で追った。
(早く入れと言ったのは俺だろう?
誰のせいでこうなったと思ってんだ。)
そう言ってやりたかったが、
散々追い上げられて啼かされた体は、
もう口を開くのもおっくうで、指ひとつ動かしたくなかった。
(おまえは満足したのか?)
最後までしなかった直江に、そう聞くことはできなくて…
ただ…俺はおまえが欲しかったんだ
おまえが欲しくて、だから会いに来たんだ…
そんな当たり前のことを、今更だけど思い知った。
離さないで
抱いていてくれ
俺の心は、ただそれだけを繰り返す。
それでも俺は…
俺たちは、ここで止まっちゃいけないんだ。
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直江が戻ったとき、高耶は杉樽で作られた湯舟に寄りかかり、
頭の半分までとっぷりと湯に浸かっていた。
「だめですよ、高耶さん。こんなところで眠らないで…」
ザブザブと湯が揺れて、少し冷たい手に腕を取られたかと思うと、
高耶はまるで子供のように、直江の足の上に乗せられてしまった。
面食らって目をぱちくりさせている間に、
上手に向きを変えた直江が、高耶の体をしっかり腕で包み込む。
「これでもう溺れませんね。」
悪戯っぽく笑う顔をちょっと睨んでやってから、
高耶は力を抜いて直江の胸に背中を預けた。
雨は小雨になり、暗かった空が薄い灰色に変わってゆく。
美しい日本庭園の向こうで、借景の竹林がザアアと風に揺れた。
「俺、先月から施設の手伝いをしてるんだ。」
「施設…ですか?」
「うん。いろんな事情で親と暮らせない子供達が暮らす場所。
俺にはまだ出来ないことが多すぎて、全然あいつらの役に立っちゃいないんだけど、
でも可愛いんだ。生意気なヤツがいてさ、俺と勝負するって聞かねえの。」
ゆったりと幸せそうに胸にもたれて、クスクス笑いながら話す高耶の言葉を、
直江は相槌を打ちながら、じっと耳と心で聞いていた。
思っていた通り、高耶は自分の道を見つけて歩き始めている。
その道は、きっと優しい高耶の心を、何度も何度も傷つけるだろう。
それを思うと、直江はたまらない気持ちになった。
どうしてあなたは、そんな道を選ぶのか…
その答えは聞かなくてもわかっている。
そしてどんな道を選んでも、あなたが苦しまずに生きる道などないことも。
そういう人だからこそ、俺はこれほどまでにあなたに惹かれるのだ。
その心に
その生き方に
敵わないのは才能などではなく、あなたそのものなのだと、
心の底ではとうに知っていたのだと思う。
どう足掻いてみても、この腕に捕まえておくことは出来なくて、
だからあなたがいつか飛び去ってしまいそうで、
怖くて 苦しくて たまらない
欲しいのは、才能などではない。
あなたを繋ぎとめるもの
俺とあなたを繋ぐ、絶対に切れない絆
絶対にあなたを失わないという、確固たる自信
それが欲しいだけだ。
けれどそれは、どうすれば手に入るのだろう?
俺はどうすれば、あなたと共に生きられるのだろう?
いつのまにか直江は、腕の中にいる高耶を強く抱きしめていた。
「直江…」
高耶の腕が、そっと直江の腕を抱いた。
「おまえの映画、毎日見てた。テレビでやったのも。
レンタルできるのは全部見て、光のかけらも見ちまった。
なんか、恥ずかしいよな、自分を見るの。」
本当に恥ずかしそうに肩を竦めて、高耶は躊躇うように言葉を切り、小さく息を吸い込んだ。
「たまらなくなったんだ。会いたくて…
本物のおまえに、会いたかった。」
ギュッと腕に力を込めて、高耶は肩越しに直江を見つめた。
12月12日
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