光のかけら−42

直江と連絡をとろうとして、高耶は携帯電話のことを思い出した。
そういえば、まだ電話番号も言ってなかった。
ちょうどいい。これで掛けようと取り出したとき、部屋の電話が鳴った。
「直江? 良かった。今おまえに…」
言いかけた言葉を、直江の緊迫した声が遮った。

「高耶さん! どうかひとりで外に出ないで下さい。
すぐにそちらに行きたいんですが、どうしても外せない用事が出来てしまいました。
誰に何を言われても俺はあなたを守る。お願いだから、俺の心だけを信じて下さい。」
必ず行くと告げて、電話は切れた。

一体何が起きたのだろう?
この部屋はいつもと何も変わらない。
千秋だって何も言ってなかった。
考えられるのは、直江が誰かに何かを言われたか、家に何かが届いていたか。
そしてその何かが、俺に関することなのは間違いない。

俺のことで直江がこんなに心配することといえば、ひとつしかない。
誰かがリークしたんだ。
でもいつ?どこで?
たった3日間だ。それまでは何も無かった。
自分たちの行動を思い返して、ちょっと赤面した高耶だったが、人目につくところで噂になって困るようなことをした覚えは無い。

しばらく考えてから、高耶は帽子を目深に被って外に出た。
直江の言葉を信じないわけではなかったが、なにより情報が少なすぎる。
ともかく千秋に会えば、何かわかるかもしれない。
そう思って撮影所に向かった高耶は、まだ漠然とした不安しか感じていなかった。
自分が熱狂的ファンを持つ存在だということを、高耶は全く自覚していなかったのだ。

その頃、直江は高耶の事務所に向かっていた。
特に公表しているわけではないが、直江の住まいは芸能関係のマスコミにも知られている。
つまりは知ろうと努力すれば、わかるということだ。
家に帰ろうとした直江は、近くまで来て妙に人が多いのに気付いた。
ファンや見覚えのある記者の姿に混じって、若い男たちがウロウロしている。
高耶さんと同年代かな?と思った瞬間、ピンと来た。

若者のカリスマ。出会った頃、彼はそう呼ばれていたのだった。
高耶は、俗にワルと呼ばれる男たちに、圧倒的な人気を誇っていた。
本人があまりにピュアで優しい心の持ち主なので、彼らのことなどすっかり忘れていたが、熱狂的なファンもいるだけに、自分との関係を知られたら、高耶に危害が及ぶ恐れもある。
本当は自分への危害の方が深刻なはずなのに、直江の心配は専ら高耶のことだった。

すぐに高耶に電話して、外に出ないように言うと、今度は高耶の事務所に連絡を入れた。
二人の関係を話すべきか否か。
これは微妙な問題だ。
男女間ならどうということはないが、同性だというだけでリスクの大きさは計り知れない。

高耶を好きになったときから、直江は自分が何を言われてもいいと覚悟していた。
仕事が来なくなっても、必ず演技で仕事をとってみせる。その覚悟があった。
けれど高耶は違う。
まだたった3日間だ。
ほんの少し前まで、こんな関係を考えてもいなかった人に、そんな苦しみを与えたくない。

それには高耶の事務所の協力が不可欠だ。
直江は高耶の担当だという北条氏照に会う為に、ひたすら車を飛ばした。

 

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