光のかけら−33

こういう時は、誰かが家に居たほうがいい。
入れ違いになるのを防げるし、家に連絡が入った場合もちゃんと受けられるからだ。
しかも直江は、美弥が通りそうな道を知らない。
高耶の判断どおり、ここで待っているべきだ。と思って残った直江だったが、高耶の服装を思い出して、いてもたってもいられなくなった。

男なら襲われないと、誰が言えよう? 
道を教えてもらって自分が行けばよかった!
直江はサングラスを掴むと、ドアに鍵をかけて階段を駆け下りた。
窓から見えたスーパーに行ったとすれば、この道を左に曲がったはずだ。
当たってくれと念じながら、直江は全速力で走った。


「かわいいねぇ、彼女。俺たちと遊ばない?」
チャラチャラした男が3人、潰れた帽子屋の前で美弥に声をかけてきた。
まだ7時。暗くなったとはいえ宵の口だ。
だが都会と違って、この辺りは店が閉まるのも早い。
閑散とした商店街は人通りも少なく、美弥は怖さを隠して足早に男たちの前を通り過ぎた。

「待ちなよ。そんな急がなくてもさぁ」
男の一人が美弥の腕を掴んだ。
「いやっ! 離して!」
あっという間に前後を囲まれ、美弥は真っ青になって立ちすくんだ。
(助けて! お兄ちゃん!)
叫びたいのに、怖くて声が出ない。
ギュッと目を瞑ったとき、ふいに美弥を掴んでいた腕が離れた。

「何だよ、邪魔する気か?」
言いかけた言葉は、最後まで言えなかった。
ガツンと殴り倒された男を、もう一人が慌てて介抱しにいく。
残った一人を至近距離で睨みつけて、
「おまえも殴られたいのか?」
と凄んだ高耶は、ブルブルと首を振る男に、ぞくりと背筋が寒くなるような微笑で頷いた。

「美弥、大丈夫か?」
「うん。」
ホッとしてやっと声が出るようになった美弥を、高耶が連れて行こうとすると、
「あんた…仰木? 仰木高耶…モノホンだ!」
呆けた顔で凄まれた男が指差した。
携帯電話のカメラを向けてパシャパシャ撮られ、高耶は眉をしかめた。

「美弥、先に行け。俺もすぐ追いつくから。」
心配そうにしながらも、美弥は高耶の言うとおりに走っていった。
それを見送って、高耶は携帯電話を取り上げようと、男に近づいた。
「人違いだ。勝手に撮ってんじゃねえ!」
だが、今度は男も簡単に引き下がらなかった。

間近で見る本物の仰木高耶。それはカワイイ女の子とは全く別ものだ。
こんなチャンスを逃す手はない。
そのうえ、今の高耶はシャツを着ていなかった。
ダークスーツから垣間見える素肌に、キラリと光る銀の十字架。
睨む瞳の鋭さが、なおさら心を掻き立てる。
そんな気がなくても思わず生唾を呑むほどだ。

殴られた男と介抱していた男まで加わって、3人が目の色を変えて寄って来ていた。
「本気で殴られたいらしいな。」
高耶の瞳が、冷たく光った。

 
スーパーを目指して走ったものの、どう行けばよいのかわからない。
とにかく方向だけを確かめながら走っていると、いきなり脇道から美弥が飛び出した。
「直江さん! お兄ちゃんが…」
血相を変えて、美弥が出てきた道を走った直江の目に、
男に襟を掴まれた高耶の姿が映った。

 

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