光のかけら−32

重ねた唇の角度を変えるたびに、小さな喘ぎが漏れる。
耳に触れる息の甘さが、絡めとられた舌の感触が、どんどん理性を奪ってゆく。
どのくらいキスをしていたのか、二人がもつれあって畳の上に倒れこんだとたん、どこかで目覚ましがジャジャーンと鳴り響いた。

ハッと現実に引き戻されて、高耶は慌てて起き上がった。
「美弥のやつ、変な時間に目覚ましかけてっから…」
火照った顔と体が熱い。
目覚ましを探して歩き回る高耶を捕まえ、直江は脱げた上着を羽織らせた。
「すごいタイミングでしたね。」
と笑いながら顔を覗き込むと、高耶は少し目を上げて照れくさそうに笑った。

本当に、いいタイミングだった。
もしあのままだったら、自分はどうするつもりだったのだろう?
こんなつもりではなかった。
だが一度触れてしまった高耶の唇は、直江の欲望に消えない火をつけてしまった。
もっと欲しい…そんな底なしの欲望を、高耶に晒してどうするというのだ?
受け入れられるはずがない。
しかもこんな場所で、いつ美弥さんが帰るかもわからないのに…

高ぶる思いを抑えきれない自分に悶々としながら、直江は煙草を1本取り出した。
火をつけかけて、元に戻す。
何をしているんだ…俺は。

同じ言葉を、高耶も心で呟いていた。
今も鼓動は静まらない。もっと…と望む思いの強さに、高耶は困惑していた。
「あ! こんなところに置いてたのか。」
時計を見つけて、アラームを止めた高耶は、時間を見て驚いた。
「もう7時? あいつ何やってんだ!」
スーパーまで行っても1時間もあれば帰れる。
外はもう暗い。
嫌な予感に高耶の顔色が変わった。

「迎えに行きましょう。鍵は?」
「あるけど…おまえはここで待ってろ!」
飛び出そうとする高耶に鍵を置かせて、直江は玄関に残った。

 

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