『柊(ヒイラギ)』−4

携帯を開いた直江の瞳が訝しげに細められ、瞬く間に大きく見開かれた。

「高耶さん? 高耶さん!」

電話の向こうで、躊躇うような息遣いが聴こえる。
声は聞こえないが、この電話番号は…
間違いない。高耶しか有り得ない。
わけもなく高鳴る鼓動に、声が上擦った。

「どうしたんです? 高耶さん?」

急いで問いかけた直江の耳に、電話口でフゥッと小さく息を吐く音がした。

「…どうって…えっと…直江…おまえ、今どこだ?」

初めて電話を通して聴く高耶の声は、いつもより少し低く心細げに響いて、
なぜか今すぐ会いたい気持ちにさせる。
直江の心が通じたかのように、高耶は躊躇いがちに言葉を継いだ。

「おまえんちに行こうと思ったんだけど、いなかったらしょうがねえし…
 っつか、よく考えたら知らねえしな。もし帰る途中だったら、
 どっかで会えねえかと思って…」

なんという偶然だろう。
思わず声が弾んだ。

「どこへでも行きます! 今ちょうど駅に行く途中なんです。
 ええ、もうすぐ教会の通りをJRの方へ…」

「わかった。2分で着くから教会の前で待ってろ!」

答える間もなく、プチッと電話が切れた。

教会まで2分?
そんな近くに来ているなんて!

直江は携帯を手にしたまま、慌てて周囲に目を凝らした。
だが、それらしい人影は、まだ見えない。
すぐ先にある教会まで走った直江は、美しくライトアップされたモミの木の前に立った。

ここに立っていれば、どの道から高耶が来ても、すぐにわかる。
ソワソワと周りを見回し、通り過ぎる車の向こうに首を伸ばして、ライトの灯りで腕時計を眺めた。
まだ1分しか経っていない。
たった2分…それがこんなに待ちきれないなんて…

ドキドキと落ち着かない鼓動を抑えて、直江は苦笑いしながら足元に目をやった。
濡れた舗道の隅で、教会の敷地から枝を伸ばした柊の葉に雪が積もっている。
深い緑に白い雪が映えて、尖った葉先が光を受けて煌いた。

この柊は、クリスマスホーリーと呼ばれる西洋ヒイラギとは違い、
赤い実をつけない日本古来の破邪の木だ。
それがなぜか教会の庭に植えられ、しっかりと根付いて輝いている。
間違えて植えたものかもしれないが、触るとケガをしそうなほどピンと尖った葉が、
凛として清々しく思えた。

「直江!」

息を切らして走ってきた高耶の声に、直江は顔を上げて微笑んだ。

 

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