『柊(ヒイラギ)』−2

千秋は意味深な笑みを浮かべると、

「仰木からメール貰ったんだよ。
 『直江警部補に松本まで送ってもらった。大事な部下に寝不足させて申し訳ない。
 戻ったら何でも言うことをきくから許してくれ』ってな。
 楽しみだよなあ。何をさせようかな〜♪」

直江の反応を試すように、しっかりと目を合わせた。

「なっ…!なぜそんな話になるんだ!
 あれくらいで仕事に支障をきたすようなこと…ッ!」

俺はあの人に、その程度の人間だと思われていたのか?
そんな…お詫びに何でもするなんて、なぜそんな事まで…

千秋も千秋だ。
なぜそこで、じゃあ何をさせようかと考えるのだ?
理不尽ではないか。

ショックが怒りに変わってゆく。

「何をさせるつもりだ?
 私は寝不足になど、なっていないぞ!」

カッと目を見開いて、直江は千秋を睨み付けた。

不穏なムードに、楢崎と武藤が顔を見合わせて溜息を吐いた。

「…課長…そりゃかなり無理があるぞ?」

「そうっすよね。嘘はいけませんよ、課長。
 直江警部補が本気にするじゃないっすか。」

あっさり嘘と言い切られ、千秋は軽く眉を寄せてチッと小さく舌打ちした。

「嘘?」
目を瞬いた直江に、武藤潮は大きく頷いた。

「あの仰木が、そんなカワイイこと言うか?
 絶対ありえねーって。」

「ええ。送ってもらったという話も、仰木さんが自分から言ったかどうか…」

頷く楢崎の顔を見て、直江は再び千秋の顔を眺めた。

千秋は知らぬ素振りで3人の視線を受け流し、

「ん〜眠い。しばらく寝るから、あとよろしく。」

とパッタリ机に顔を伏せてしまった。

嘘だったのか…?

確かに、落ち着いて考えてみれば彼らしくない。
そんな事にも気付けなかった自分が、どうしようもなく馬鹿に思えて、直江は更に落ち込んだ。

だが、それが潮の心を動かしたらしい。

「あんた、見かけによらず、いい奴なんだな。」

親しみを込めた笑顔で言われ、またしても複雑な心境になった直江であった。

 

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