千秋は意味深な笑みを浮かべると、
「仰木からメール貰ったんだよ。
『直江警部補に松本まで送ってもらった。大事な部下に寝不足させて申し訳ない。
戻ったら何でも言うことをきくから許してくれ』ってな。
楽しみだよなあ。何をさせようかな〜♪」
直江の反応を試すように、しっかりと目を合わせた。
「なっ…!なぜそんな話になるんだ!
あれくらいで仕事に支障をきたすようなこと…ッ!」
俺はあの人に、その程度の人間だと思われていたのか?
そんな…お詫びに何でもするなんて、なぜそんな事まで…
千秋も千秋だ。
なぜそこで、じゃあ何をさせようかと考えるのだ?
理不尽ではないか。
ショックが怒りに変わってゆく。
「何をさせるつもりだ?
私は寝不足になど、なっていないぞ!」
カッと目を見開いて、直江は千秋を睨み付けた。
不穏なムードに、楢崎と武藤が顔を見合わせて溜息を吐いた。
「…課長…そりゃかなり無理があるぞ?」
「そうっすよね。嘘はいけませんよ、課長。
直江警部補が本気にするじゃないっすか。」
あっさり嘘と言い切られ、千秋は軽く眉を寄せてチッと小さく舌打ちした。
「嘘?」
目を瞬いた直江に、武藤潮は大きく頷いた。
「あの仰木が、そんなカワイイこと言うか?
絶対ありえねーって。」
「ええ。送ってもらったという話も、仰木さんが自分から言ったかどうか…」
頷く楢崎の顔を見て、直江は再び千秋の顔を眺めた。
千秋は知らぬ素振りで3人の視線を受け流し、
「ん〜眠い。しばらく寝るから、あとよろしく。」
とパッタリ机に顔を伏せてしまった。
嘘だったのか…?
確かに、落ち着いて考えてみれば彼らしくない。
そんな事にも気付けなかった自分が、どうしようもなく馬鹿に思えて、直江は更に落ち込んだ。
だが、それが潮の心を動かしたらしい。
「あんた、見かけによらず、いい奴なんだな。」
親しみを込めた笑顔で言われ、またしても複雑な心境になった直江であった。
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