『柊(ヒイラギ)』−1

高耶を松本まで送って帰った翌日、直江は久しぶりに署のパソコンを開いた。
調べものや資料整理も溜まってしまえば時間がかかる。
1人でいる間に済ませておこうと、デスクワークに励んでいた直江は、

「なあなあ、仰木の休みは今日だけだよな?」

斜め前の席から声を掛けられて、

「そう聞いているが…?」

キーボードを叩きながらチラリと目を上げ、相手に怜悧な視線を向けた。

声の主は、武藤潮。
今は楢崎と組んでいる警部補だが、直江が来る前は高耶と組むことも多かったらしい。
それだけに、高耶の事となると普通以上に気になるようで、何かというと話しかけにくる。
例のゲームセンターでの事件直後、血相を変えて千秋に怒鳴った姿は、今も直江の心に深く残っていた。

(俺が一緒だったら、絶対こんな怪我させてねえ!
 なんで俺ンとこから外したんだよ! なんで仰木を独りにしたんだ!)

後で武藤は、ムチャなことを言って悪かったと謝ったが、
高耶を心配する気持ちから出た言葉には、ずっしりとした重みがあった。

だが今あの人と一緒にいるのは、俺だ。
もう二度と独りになどしない。
あの人は俺が守る!
そんな思いを胸に秘め、直江は武藤の無邪気な顔に目をやった。

「いや今日だけなら、夜には帰ってるかなと思ってさ。
 せっかくのクリスマスだから、なんか持ってってやろうと…」

「とか言って、また仰木さんちに泊まる気でしょう?
 疲れてんだから、そっと寝かせてあげなきゃダメっすよ。」

嬉しそうに語りかけた武藤を遮り、横から楢崎が口を出す。

「おまえなぁ、俺がいつ泊まるって言ったよ!」

「言わなくたって、終電で行ったらそうなるに決まってんでしょうが。」

掛け合い漫才のような二人をよそに、直江は完全に手を止めて呆然とパソコンの画面を眺めていた。

高耶と一緒にいるとは言っても、今まで殆ど私的な会話の無かった直江だ。
ようやく昨夜、ほんの少し高耶の心に近づいた気がしたのに、
武藤は既に何度となく高耶の家に泊まったという。

自分はまだ高耶の家も知らない。行きたいと言うことすら躊躇われるのに…

この衝撃は大きかった。
顔では平静な振りをしながら、内心では暗く沈み込んでゆく直江の気持ちも知らず、
武藤と楢崎はワアワア行く行かないで揉めている。

「なぁに揉めてんだ? いい加減にしろよ、てめえら。
 ンなとこで騒いでる元気があるなら、オレの肩を揉んでくれよ。
 誰かさん達のおかげで、気苦労が絶えなくてさぁ…」

ちょうど会議から戻ってきた千秋が、ハァ〜と大きな溜め息を吐いて、グッタリとデスクに倒れ込んだ。

何が気苦労だ。そりゃ遊び疲れじゃないのか?
昨日もシングルクリスマスパーティーだとか言って、俺達を誘っておきながら、
女の子たちを引き連れて遊びに行っちゃったのは、どこの誰だよ…

…とは楢崎と武藤の心の声で、何も知らない直江は千秋の言葉に、ちょっと気遣わしげな目を向けた。

「あ、そういえば直江警部補は昨日いませんでしたよね。やっぱデートっすか?」

力関係で負けたのか、渋々立ち上がった楢崎が、千秋の肩を揉みながら声を掛けた。

「それが昨日は違うんだよな〜。こいつ松本まで仰木を送ってったんだと。」

ファ〜と気持ちよさそうに欠伸して、千秋がサラリと爆弾発言を落とした。

「なぜそれを!」
「マジかよ!」

驚いた直江と武藤の声が重なった。

「ディアディテクティブ」シリーズ(←やっぱりシリーズ化/笑)の「とある刑事のクリスマス」の翌日。
ようやく潮が登場〜♪ ふふふ。私、潮と高耶さんの関係もホント大好きなんだよなあ(^^)

 

小説に戻る

TOPに戻る