『ヒートアップ! 第3戦』−8


試合は5対3で高耶たちがリードしていた。
開始してから40分。彼らを見守る中川は、焦りを感じ始めていた。
思っていた以上に双方とも体力を消耗している。
そろそろ休憩させないと、このままではあのときの二の舞になってしまう。
ルールになくてもかまうものか。
両手を挙げて休憩を告げようと口を開けた時、目の前で急に激しい攻防戦が始まった。

その少し前、蘭丸と頼竜に押しやられるようにして、ゴールに近づきすぎた高耶が、二人の隙間を縫って千秋にパスした。
だが信長の意外なほど軽い動きに、千秋の速いドリブルでもターンでも、引き離すことが出来ない。
「体力温存してたのか? って感じでもなかったけどな。」
やはり侮れない。どうやら信長は本気でバスケに目覚めたらしい。
ゴールに近づくことも、離れてしまうことも出来ずにいる間に、蘭丸も頼竜もそれぞれが高耶と直江のガードに付いて、千秋からのパスボールを狙っている。
「しゃぁねえな。頼むぞ、直江!」
信長の脇を抜けて、速いパスが直江の左前方に飛んだ。

弾かれたように直江が走る。
頼竜も走ったが、千秋の期待どおり直江の方が早かった。
直江の手がボールを捉えようとした瞬間、横から信長の手が伸びた。
「なに?!」
速い! なんて速いんだ!!
だが驚愕している暇はなかった。直江は必死に手を伸ばし、中指の先でボールを叩いた。
信長の手は僅かに届かず、ボールはその先に飛んでいく。
まだ誰もいない空間に、高耶と蘭丸が走り込んだ。
信長と直江もせめぎあって走り、ついに4人の激しい攻防が始まった。

口を開きかけて、中川は諦めて後ろに下がった。
しかたがない。
この攻防が一段落するまで、休憩はお預けにするしかなかった。

最初にボールに触れたのは高耶だった。が、手元に引き寄せる前に蘭丸のカットで逃がし、その球を信長が取った。
にやりと笑った信長だったが、さすがにドリブルは上手くない。
早々と高耶に奪われ、悔しげに睨みつけると今度はピタリと密着を謀る。
信長の狙いがボールなのか、高耶へのプレッシャーなのか、いまいちわからないその表情に、直江の怒りが燃え上がった。
本来なら、少し離れてパスしやすい場所に移動すべきなのだが、今の直江にはそんな事をしている余裕はなかった。
さっきは高耶の思いを汲んで引き下がったものの、もはや我慢も限界だ。
信長と高耶の間に交わされる視線の熱さが、直江の胸を激しく揺さぶっていた。

(許さない。これ以上この人に近づくな!)

ガードする蘭丸を押しのけ、高耶を挟んで信長の反対側に廻った直江は、低くドリブルしているボールを素早く奪うと、驚く高耶に目もくれず、信長を挑発するように見つめて走り出した。
ゴールから離れていく直江を、信長が追う。ゴール下には千秋と頼竜がいる。
しかし直江の狙いは、千秋にパスすることでも、自由になった高耶にボールを返すことでもなかった。
ふいに足を止めた直江は、追ってきた信長を前に、ポンポンと2度ほどボールをついた。
何をする気かと見つめる信長に、口角を少し持ち上げると、直江はスッと体を沈め、綺麗にジャンプしながらボールを離した。
長身が空中で束の間静止し、腕がしなやかに伸びる。
美しいフォームで放たれたボールは、ザシュッと網の真ん中を滑り落ちた。

感嘆の溜息が漏れた。
湧き上がった歓声と拍手の中、ボールの軌跡をずっと目で追っていた信長の体から、怒気が立ち昇った。
久しく感じたことのなかった屈辱だった。
怒りにまかせて、力で消し飛ばしてやろうかと思ったが、それでは一度吐いた自分の言葉を撤回することになる。
それは尚更の屈辱だ。
形を成せずに空へ昇ったオーラは、ぐるぐるとドス黒い渦を巻いて嵐を呼び、小さなコートの上で雷鳴がゴロゴロと唸りだす。
ぽつり、ぽつりと降り出した雨の中、ボールは千秋の手から高耶に移っていた。

 

怒髪天を突く(?)とうとう嵐を呼んでしまった信長(←嵐を呼ぶ男なんちゃって/殴)
これで6対3。さあ試合はここからどうなるのでしょう?
そして中川先生は、いつ休憩を言い渡せるのか(笑)
リアルタイムでUPしてるこの話。私も先がわかりません〜(^^;


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